SGML形式による患者情報の地域共有について

 

山本 和子
島根医科大学医療情報学講座


1.はじめに

 地域医療資源を有効に活用し、患者のケアを円滑に行うために、本学病院情報システムの外側に地域医療情報ネットワークシステムを連結し、患者情報の地域共有を可能にしたので報告する。本システムは公衆電話回線を通じてインターネットのWebブラウザで医療機関相互(本学以外の医療機関相互でも可)に情報交換するものである。セキュリティを守るためにワンタイムパスワードを使用し、閉鎖的なネットワークを用いている。

 

2.本学附属病院内の電子カルテ?の部分

電子カルテもどきを開発中であるが、誰も「これ電子カルテ?」という返事なので、本学では「診療支援システム」と称している。理由は、手書きカルテに近いイメージを持っていないからである。しかし、通信には便利(ほしいものだけを抜き出せる)である。

 

2−1.情報入力の部分

本学のオーダ画面は向かって左半分がオーダ歴、右半分がその時のオーダ内容となっており、検査成績等総ての病歴情報の参照はこの画面で行われるのが習慣である。従ってオーダ中にチョコチョコと必要な情報をメモ書きしておけば電子カルテになる。という考えからきている。一応、テンプレート(コメント文の追加可能)、自由記載文、画像添付の3機能を持っており、各々にタイトルが付けられ、自由に組み合わせることができる。情報は総て最小単位に分割されて階層構造で連結されている。現在のところ全科強制的に入力が決まったのは退院時記録だけである。その入力画面例を図1a−図1cに示す。なお、図のデータの内容は総てデタラメである。端末側はVBで作成され、データは夜間に情報参照システムに転送され蓄積される。データベースはU-MUMPSである。情報参照システムに転送された時点で改竄不可となる。退院時記録の場合は承認印が入力された時点で改竄不可となる。

 

図1a.情報入力画面例(退院時要約−全科共通項目)

図1b.情報入力画面例(退院時要約−科別テンプレート)

図1c.情報入力画面例(退院時要約−科別自由記載文と画像添付)

 

2−2.情報参照の部分

入力された情報はタイトルと共に文章形式で表示される。VBでの表示画面は入力画面と同様である。インターネットのWWWブラウザでも表示される(図2)。従って診療端末ではオーダ系のVBウインドウとWWWブラウザの2画面が並列で表示されることになる。本学ではMACのPC所有者が多いので、WWWの電子カルテは歓迎されている。画面例は6月からインターネットのホームページに掲載する予定である。参照画面は地域医療情報ネットワークシステムと共通である。

 

図2.WWWの情報参照画面例

 

3.地域医療情報ネットワークシステムの概要

 本学病院情報システムの先に地域医療情報ネットワークシステムを追加し、地域医療機関との情報通信が行えるようにしている。システムはファイアウオール1台、認証サーバ1台、WWWサーバ2台、データベースサーバ2台の機器構成で、いずれもPCである。データベースはCashe(M)である。

 

3−1.システムの特徴

1)誰でも使えるように

誰でも、どのような機種のパソコンでも使えるように、WWWサーバを用い、端末側はWWWブラウザを使用している。

2)セキュリティとプライバシーの保護

インターネットとは別の地域医療用の公衆電話回線を用い、大学側はINS1500を用意して、会員制の閉鎖ネットワークとしている。

本学の患者情報に関しては、本学医師が提供可と判断した情報のみ、情報提供依頼者に1ヶ月間使用可能のメニュ−を渡し、依頼者はそのメニュ−で学外から患者情報を参照する仕組みである。情報はファイアウオールの中にあり、1ヶ月後にはメニューとデータを消去するので、セキュリティはかなり守られる。

3)データベース

データベースは地域医療サーバには持たない。要請があった時のみ一時的に地域医療サーバに掲載するのみである。維持管理費の節約とプライバシーの保護を考え、集中型とせず、医療機関毎の分散型水平ネットワークにしている。

4)情報通信の標準化

本学附属病院の患者情報は、文字情報に関しては、病院情報システムと地域医療データベースサーバ間は業界標準規格のHL7で通信し、地域医療データベースサーバと地域医療機関のコンピュータ間は日本医療情報学会標準規格のMML(MedicalMarkup Language)またはインターネットのWWWブラウザに表示できる言語のHTML(Hyper Text MarkupLanguage)で通信する。これにより、本学病院情報システムの患者情報は地域医療機関からWWWブラウザまたはMMLブラウザで参照できる。また、地域医療機関のディスクにデータを保存できる。

 画像の場合は、JPEG形式またはDICOM形式(表示するにはDICOMブラウザが必要)の画像の相互通信も可能で、画像診断に利用できる。

 

3―2.地域医療情報ネットワークシステムの機能

本システムの機能一覧を表1に示す。本学の患者情報は、図3に示したように、地域医療機関の医師個人宛に、項目別に一ヶ月分の情報を梱包し、MMLで包み、HL7のトロッコに乗せて送り出している。ところがこのトロッコが、結果的に、電子カルテとして本学附属病院の中も走ることになった。利用者が増加するとHL7のトロッコが調子よく走るかどうかが今後の課題である。

図3.医療の連携概念図

 

画面例 URL:http://www.shimane-med.ac.jp/japanese/local/sousa.html

 

表1.地域医療情報ネットワークシステム機能一覧

1) 患者紹介と診療結果報告書作成

2)医療機関相互の情報交換

3)画像転送

4)会員ホームページ

5)症例検索リンクベース

6)学内外からの患者情報参照(本学医師のみ)

 

4.今後の展望

インターネットは広く利用されるようになり、それなりに便利で利用価値があるが、まだセキュリティの面で危険は大きい。そこで今回は地域医療用の電話回線による閉鎖的なネットワークを用いている。しかしながら、いずれは情報を暗号化してインターネットで利用できるようにしたいと考えている。