松戸市のEMInet  その後の展開


高林克日己
千葉大学医学部附属病院医療情報部 


1 システムの概要

松戸市コンピュータサービスが提供するサーバ内にOracleでデータベースを作成し、これと各施設のクライアントが地域IP網で結ばれたASPを基本としている。各医師は端末に指紋認証でログインしたのちWebベースで情報をサーバにアクセスする。

共有施設には松戸市医師会が主体となって各施設に呼びかけ、2つの公的病院、8つの私立病院、28の診療所、2つの訪問看護ステーションが参加し、さらにこの一年で3施設が加わることになった。共有設定はかかりつけ医をキードクターとし、この医師と患者さんが話し合って決めることとした。新たな施設の共有はキードクターのみが加える権利をもっている。また患者は配布されたe-cardをもっていけばどの施設でも自分のデータをみることができ、また医師に記入させることが可能になる。

EMInetシステム概要
(図1) EMInetシステム 概要


一度このカードで接続共有された医師は、キードクターがとくに加入処置をとらなくてもその後は共有関係で結ばれる。このように患者本位で接続する施設は限定され、必要により拡大する方向で設計されている。EMInetへの記録は相互に開示することを原則として書かれており、共有関係にある他の施設の医師がデータを患者に開示することを許可している。


2 現在の利用状況

一年の施行期間を過ぎて、参加施設は3診療所が増え、登録者は500名を越えた。しかしこれは必ずしも多い数字とはいえない。このうち10回以上の書き込み数は4病院、8診療所、2訪問看護ステーションで、一部の医師に偏在している。共有関係では診療所と訪問看護ステーションの関係が最も多く全体の33%を占めている。


3 共有設定に関する検討 

1)診療情報2段階性の必要
EMInetでは医師の書いている記録がそのまま他の医師に配布されるわけではない。このため元本のカルテとは別に医師はわざわざcopy and pasteして、EMInetに入力しなけれなければならない。しかしながら患者の立場からすれば、主治医に話すことの全てが共有化されることを必ずしも望んでいるわけではない。むしろ共有化されてもよい情報に限らないと主治医と患者の信頼関係が保てなくなってしまう可能性がある。これはカルテ共有の限界であり、全カルテを共有化することは現実的でないと考えられた。EMInetでは共有すべき内容については医師の判断で選択して決定している。

2) 三者の介入に対する危惧
EMInetではその内容開示については平等であり、また域内一カルテの存在としている。特定の医師間で利用することも可能であるが、患者がeカードをもって他の医療機関に受診すれば、これらの内容を事情をよく理解できていない他の診療機関の医師や、あるいは患者自身が読んでしまうことになる。基本的には患者への開示が第三者機関でも許されているので、共有カルテに記載することには制約が出てくる。

3) 送信側と受診側の温度差
救急で搬送されたときに読むべき禁忌事項などを受診側の認識のなさから判読せず、事故につながりかねないインシデントが起こった。この場合の責任問題も考えなければならない問題である。

4) 共有設定先への連絡
現在までEMInetは共有設定は主治医と患者で行い、登録先へはその都度許可や連絡はとっていない。これは松戸市立病院など大量に共有先に指定される病院ではこのことに対応する時間がないからである。しかしシステムの確立とともにきちんとした共有関係がなされる必要がでてきた。


4 普及に関する問題

EMInetは松戸市によりその維持費の多くを依存している。しかしその普及は今ひとつである。その理由は宣伝以上に医療機関自身の問題であると考えられる。

  1. 中心であるべき松戸市立病院が電子化されていない。このために受け入れ側が整っておらず、利用が進まない。
  2. EMInet参加施設の多くが電子カルテを持っておらず、診療記録とは別にEMInetに入力しなければならない。
  3. 病院側も電子化が進んでおらず、一施設に一台がほとんどで、診察室の机上に端末がない。at handでないために利用されない。
  4. 地域限定の利用であり、他市域の医療施設が参加できない、他市域の住民が利用できないなどの制限がある。


5 今後の展開

各施設の電子化の次には必ず共有化の必要性が認知されるであろう。EMInetはこのようなときにどのような共有設定をすべきかを模索して始められたシステムであり、病院、診療所の電子化によってはじめて本格的に利用される時代がやってくると思われる。しかし救急時に有用になることだけを期待して作られるのでは、その利用頻度は低く、複数施設を受診する患者などに広く利用されないとコストパフォーマンスも上がらない。このため電子カルテを導入した施設を中心に、積極的な取り組みを検討するとともに、セキュリティを保持して低コスト化を実現させる必要がある。