EMInet(地域医療情報共有)の現状と今後

高林克日己
千葉大学医学部附属病院企画情報部


1 EMInetの現状

現在の松戸市医療情報共有システムEMInetの使用者数は微増といった程度です。これがその後進展しない要因としては1)電子カルテとの普及が進まない 2)中核となる中央の施設の無理解 3)最も利用度が期待される訪問看護センターへの導入の遅れ 4)セキュリティに対する不安などが上げられます。最大の原因は利得の有無ということにつきるでしょう。すなわち支援なしにはコストが支払えない現状で、利益を生むものがなければ、それが有用なものとわかっていても導入されないという事実です。

また技術的にクリアしなければならない問題としては、検査データや薬剤の標準化やとくに大病院におけるアクセス管理の問題があげられます。

2 今後のシステムの展開と問題点

今後どのようになるとしても、いずれ全ての医療機関が担保されたセキュリティの上で接続されることになるでしょう。しかしそれがどのような方向、段階で展開するのか、現在は全く不明です。まずは近隣同士で電子化したところが結び合う形態でしょうが、これがさらに複数となったときにどのように対応するべきか、また形成された地域医療連携群同士を結ぶのにどのような方式がふさわしいか、どこでも最終像まで考えて進めているわけではないように見えます。おそらくこのままある程度形成が進んだのちに、一部(多くの?)犠牲を払って統一システムが完成するのでしょう。ただその情報伝達網が完成しても、その利用法がある診療連携群に特にプライオリティをもったような接続形態を求められることも予測されます。また、point to point(person to person)であるような紹介状はすぐにでも必要でしょうが、それだけではない、EMInetのような情報の共有化が求められるように思います。それがなければ電子的な医療情報共有のメリットは半減してしまいます。情報共有にはさまざまな形態が予測され、システムの柔軟性が要求されますが、それは病院内で医師間を結んだ場合で起こる連携関係が病院間、地域連携群と一種のフラクタルを形成するような関係になるのでしょうか?そう考えたときに、また翻って病院内のアクセス管理を考えざるを得ないように思います。

3 現況と今後

EMInetの現況では必ずしも楽観的ではないのですが、しかしe-Japan計画と厚生労働省のグランドデザイン、そして医療の分業、機能分担が進む中で地域医療の推進と新たな医療連携による組織作りが進むことで、情報共有ネット作りにはかなり追い風が吹いているといえると思います。とくに独立行政法人となった国立大学病院はその権益保持のために今後進んで地域医療と取り組んでいくものと思われます。

千葉大学は昨年6月から電子カルテ化を進めてきました。現在50%の利用まで進展しています。今後これをさらに進めるためにはいくつかの問題点のクリアが必要です。また地域との連携を考えたときには、総合大学として外部との接続を直接できないという問題があります。しかし前述のように大学病院も地域と連携しなければならないという強い要求が高まってきました。それは医療の機能分担をして自らの役割を特化した先進医療にすると考えるときには、もはや地域連携なしに大学病院の発展は考えられないと気づいてきたからです。このような動きが医療情報関係者とは全く異なるところから、しかも経営を含めた考えとして発生してきていることから、地域医療における情報共有化の今後の本格的発展が期待されます。