地域連携医療プロジェクトを統合するスーパーサイトの構想とその目的
- Super Dolphin Project -

吉原博幸

京都大学病院


1. はじめに

電子カルテの普及を背景に、地域における連携医療の実現のため、地域ごとに医療情報センターを設置し、このセンターをハブとしたデータの交換・共有を行う。このコンセプトは、98年に吉原が提唱し、2000年の経済産業省研究開発プロジェクトで実現の第一歩を踏み出した。その後、2001年12月には、熊本、宮崎の2地域で実験的なサービスが開始され[1, 2, 3]、2004年4月からは本格的サービスへと移行している。

一方、昨年から今年にかけ、経済産業省プロジェクトとは別の、後発プロジェクトが立ち上がりつつある。すでに2004年4月に実稼動を開始した東京都医師会(HOTプロジェクト[4])、現在準備中の京都地域連携医療プロジェクト(まいこプロジェクト)、東京ベイ・メディカルフロンティア研究会[5]など、実用サービスを目指した本格的なプロジェクトが立ち上がりつつある。コンセプトの提唱→実験プロジェクト→実用レベルのプロジェクトまですでに7年。問題点を克服しつつ自立可能なプロジェクトに育つまで、あと数年は必要だと思われる。

2. 統合的スーパーサイトの必要性

この数年、センターを運営してみて、運営のための資金を集めることが非常に困難であることが痛感された。医療機関、患者ともに、目に見えるもの(電子カルテなど)にはお金を払うが、センターのようなバックグラウンドで動作するサービスへの支払いは敬遠する。本来なら、センターの維持経費を、現ユーザーで共同負担するのが筋であるが、サービスの普及していない現時点では非常に高価なサービスとなり、非現実的である。現在、この種のサービスを実践している地域は、宮崎、熊本、福岡、大阪などがあり、今後東京、京都と続くだろうが、地域プロジェクトで単独に採算をとるのは恐らく難しいだろう。そこで、これらの地域プロジェクトをバーチャルに束ねる上位のプロジェクト(super Dolphin)を提唱したい。super Dolphinは、各プロジェクトに登録された患者の「名寄せ」を行うsuper directoryの役割と、経済的に弱い地域プロジェクトへデータベースを貸し出し、少ない資金でサービスを立ち上げられるようにする。

 

図1に、そのコンセプトを示した。図は、3つのレイヤーに分かれる。下から上へ、利用者(医療機関、患者)、地域プロジェクト、全国レベル(SuperDolphin)である。


図1スーパードルフィンセンター構想(図中最上層)

 

現在稼動しているのは、中央と下の層である。各地域にデータセンターが設置され、それぞれユーザーが存在する。地域によってはまだユーザーの数が少ない。また、他地域では都市規模から自ずとユーザー数の限界が見えているところもある。このような状況の中で、いくつかの問題点が浮かび上がって来ている。すなわち、

  1. 経済的自立が困難
  2. 資金獲得のための集まったデータの利用方法
  3. 名寄せの必要性(同一人物が、地域により異なるIDを持つことの問題)

などである。

これらを解決するためには、図最上層に示した全国レベルのデータセンター(SuperDolphin)を組織する必要がある。このセンターは、当面、以下の様な機能を持つ予定である。

1)データベース機能

経済的基盤の弱い地域プロジェクトの立ち上がり時期に、データベース機能を提供することによって、地域プロジェクトの立ち上げを容易にする(現在の東京プロジェクトの様に)。また、将来に渡って独自のデータセンターを持つことが困難な地方都市において、パーマネントにデータベース機能を提供(貸与)する。

2)スーパーディレクトリ機能

地域ごとに登録された患者基本情報の名寄せを行い、最上位の(日本レベルの)IDを付与する。この機能を持つことによって、同一人のデータが全国レベルで正しくマージされることになる。つまり、患者AのIDは、Super DolphinレベルでのIDを最上位とし、この下に、患者の持つ地域ID(複数)が管理される。同時に、患者データを保持する地域プロジェクトDBのURLも管理されるので、ある地域プロジェクト配下の医療機関に患者が受信した場合、システムがSuperDolphinのSuper Directoryに問い合わせれば、その患者の臨床データがどの地域プロジェクトに存在するかが返信されるので、全国レベルで診療録の一元化が実現されることになる。

3)Dolphin Project最上位認証局

現在バラバラな認証関係を整理統合する。さらに上位認証には、日本医師会、経済産業省などが想定されている。

3. おわりに

Dolphin Projectでは、地域にデータセンターを設置し、XML(MML/CLAIM)[6,7]を用いて異なるシステム間でのデータの互換性を実現し、その結果1地域1患者1カルテを実現した(センターがハブとなり異なるシステムが連携した)。この画期的なオープンシステムを全国レベルでの連携システムに拡張するために、さらに上位のセンター(Super Dolhinセンター)を提唱し、その実現のための組織を2005年に立ち上げる。全国レベルでの連携医療を通じて、医療の質的向上に寄与したいと考えている。

【参考情報】

  1. ドルフィンプロジェクトホームページ:http://www.kuh.kumamoto-u.ac.jp/dolphin/
  2. ひご・メドポータルサイト(熊本プロジェクト):http://www.higo-med.jp/
  3. はにわネット(宮崎プロジェクト):http://www.haniwa-net.jp/
  4. 東京都医師会地域医療連携プロジェクト:http://www.ocean.shinagawa.tokyo.jp/hot/
  5. 東京ベイ・メディカルフロンティア研究会関連情報:?
    http://www.nursing-plaza.com/column/200306/02.htm
    http://www.ssk21.co.jp/text/T_03144.html
  6. MedXMLコンソーシアム:http://www.medxml.net/
  7. 電子カルテ情報交換規格MML:http://www.medxml.net/mml30/021115.html