地域完結型医療実現のツール:メディカル・ネット99

平尾幸一1), 横山吉博1), 浅野訓一1), 川上康人2), 藤本修治2), 平田俊子2), 藤田武徳2), 朝長 大2), 藤元良朋2)
1) 医療法人白十字会佐世保中央病院IT戦略本部
2) 同 メディカル・ネット99管理委員会


 

1.はじめに

厚生労働省は病院機能分化という医療改革を強力に進めており、地域医療連携(病診連携、病々連携)なくして一般病院(急性期病院)の存続はあり得ない。このような背景のもと、当院は急性期病院として地域医療支援病院の取得を目指しており、そのためにはホームドクター紹介(逆紹介)を推進し、病態が落ち着いた患者の診療を近隣の病院、診療所(以下ホームドクター)に確実に継続してもらう必要がある。即ち、疾患の急性期には当院で診療し、病態が安定した時期にはホームドクターが継続して診療し、定期的な精密検査は当院で分担するという、地域完結型の医療を構築しなければならない。

近年、電子カルテの普及とともに、患者情報をホームドクターに公開する一方通行の地域医療連携ネットワークが多数立ち上がってきた。ほとんどの地域医療連携ネットワークのコンテンツは、患者情報のみをホームドクターに公開するものであり、検査、投薬、診察というホームドクターが行う通常の患者診療においては十分かもしれない。しかし、地域完結型の医療という視点に立って患者診療をもう一歩進めて考えると、ホームドクターの医療機関における安全対策、感染防止対策が適切に行われることも非常に重要であると考える。

当院では、地域完結型医療実現のツールとしてSSL/VPNを利用した地域医療連携ネットワーク「メディカル・ネット99」を平成16年12月に試験稼働をはじめ、平成17年1月中旬より本格稼働を開始したので、紹介させていただきます。

 

2.メディカル・ネット99のコンテンツおよび役割

メディカル・ネット99は、テクマトリクス株式会社の「CoMet」をベースに構築し、MML version-3に準じた。コンテンツは、CoMetが有していた各種の患者医療情報、メール機能、紹介状作成機能、掲示板の他に、今回CT、MRI検査予約と各種マニュアル、勉強会や講演会の内容もアップできるようにカスタマイズした。各種マニュアル類は、当院で実際に使用している安全対策マニュアル、感染防止対策マニュアル、医薬品情報、検査・治療実施マニュアルなどから構成されている。

 登録される患者は、次のように分類される。

  1. 当院からホームドクターへ紹介する患者。
  2. ホームドクターから当院へ紹介入院される患者。
  3. ホームドクターから当院外来へ紹介される患者。
  4. ホームドクターから当院放射線科へ検査依頼される患者。
  5. 当院から当法人関連施設へ転院される患者。

5月10日の時点で、参加医療機関は3病院、17診療所、登録患者数は182名であり、このうち2つの法人関連施設への登録患者数は28名である。

放射線科へのCT、MRIなどの画像検査予約は毎月120件に及んでおり、以前より地域の医療機関から電話以外での予約システム構築の要望が高かったため、メディカル・ネット99に検査予約機能を備えることとした。

メディカル・ネット99が果たす役割には、ホームドクターや当法人関連施設である療養型病院、介護老人保健施設へ転院する患者情報や各種マニュアルを公開する以外に、次のような活用法がある。

  1. ホームドクターが当院のマニュアルを利用することにより、特に安全対策や感染防止対策においてホームドクターの医療機関が当院と同じレベルに達することが可能となる。
  2. 当法人各施設のセイフティマネージャーで構成される安全管理協議会の議事録、インシデント・アクシデント報告用のセキュアなネットワークとして、メディカル・ネット99のメール機能を利用する。
  3. 読影困難な画像診断を長崎大学医学部放射線科へ依頼する場合のセキュアなツールとして利用する。

 

3.メディカル・ネット99の問題点

システム上の問題点は特に見あたらないが、強いて挙げれば利用者側の環境に改善の余地がある。

1つは、診察室にメディカル・ネット99へアクセス可能な端末を設置しているのは22の医療機関中7つに過ぎないため、「当院の患者医療情報がホームドクターと共有されている」という実感を患者が得難いのではないかということである。ただし、外来患者が多い医療機関においては、患者の目の前でネットワークへ接続する暇がないという声もある。

次に、佐世保市内の医師会員でパソコンを操作できる医師がかなり少ないということである。しかし、最近になってパソコンの操作法の勉強しようという医師も現れてきており、当院内で希望者にパソコン講習会を開くことも検討中である。

 

4.メディカル・ネット99の将来構想

目標は、登録患者自身にもメディカル・ネット99を介して、自分の医療情報を見ることができるようにすることである。このためには、次のような条件をクリアする必要がある。

 1)公開鍵基盤、あるいは公開鍵基盤に準じた安価なセキュリティシステムの確立。

 2)医師(および看護師)による適切な診療記録の作成。

この他、実際には、患者自身が「がん告知など自分の病状を受け入れることができること」も条件の一つと考えられる。

 

5.おわりに

メディカル・ネット99の本格稼働開始後4ヶ月が経過し、患者情報の共有と当院の各種マニュアルの公開はホームドクターに好評を博している。この間、地方の新聞、テレビに大きく取り上げられたこともあり、メディカル・ネット99は地域医療機関のみでなく患者にも広く認知され、参加を表明する医療機関や登録患者数も少しずつ増えつつある。メディカル・ネット99は、あくまでも地域完結型医療を確立するためのツールであることを認識し、確実に運用していきたい。