医療情報交換規格運用指針第1版


MERIT-9 (MEdical Record Image Text - Information eXchange) version 1

浜松医科大学 医療情報部 木村通男


1.目的

a.診療情報を異なる医療機関の情報システム間で交換するため、その電子的情報の表現方法の仕様を定め、日本語および英語で文書化する。

b.ここでいう仕様書は、今後の病院/診療所情報システムや、電子カルテシステムの要求仕様の一部に含まれることを前提としたものであり、十分に詳細で、実装可能な、具体的内容のものとする。 但し対象は医療情報の交換であり、病院/診療所情報システムや電子カルテシステムそのものの仕様を定めるものではない。

c.ここでの仕様書に基づいて表現された診療情報は、その診療情報を単独で多目的に利用できるだけの必要十分な属性情報を併せ持つものとする。

d.上記仕様を策定することにより、既に標準化が進んでいる画像、検体検査については、診療施設間で患者を紹介する際に紹介状とともに多くの情報を渡すことが可能となる(図1で1のケース)。また、検査センターから診療施設に結果を報告する際(2のケース)、多施設から情報を集め、症例データベースを構築する際(3のケース)、患者の希望に応じて結果や画像を開示し、提供する際(4のケース)、自施設内で診療情報を様々な範囲で蓄積する際(5のケース)、などにも利用されることが期待される。

2.仕様の範囲

 平成8年12月の時点で仕様として文書化が可能な程度に標準化が進んでいる以下の4分野について、平成8年度中に、医療情報交換規格運用指針(MERIT-9)第1版として文書化する。

  a. 患者識別情報(住所、氏名、生年月日など)
  b. 検体検査情報
  c. 画像情報
  d. 情報のパッケージ化仕様

  なお、今回仕様として規定するには議論が十分になされていない以下の分野については、可能であれば補足資料として試案を掲載し、規定は今後の版にゆだねる。

  A.有効保険情報
  B.診断病名情報
  C.処方情報
  D.波形データ情報
  E.所見情報、プロブレムリスト

3.仕様策定方針

a.当プロジェクトの策定する仕様案では、現存し、その分野では運用されている医療情報用規格などをなるべく採用する。

b.「情報のパッケージ化仕様」は、全体として診療情報をどのようにパッケージ化するかであるが、これについては平成7年度厚生省委託事業である電子カルテ開発事業の成果物、SGML(Standard Generalized Markup Language)文書形式による診療情報用DTD(Document Type Definition)であるMML規格をベースに拡張を行う。また、画像、検査結果など各分野の情報を一患者単位で前項のSGMLで統合する際に生じる問題点について検討を行なう。

c.検査、画像については、単に検査結果値だけでなく、検査値と共に交換しなければならない関連項目(例えば、検査基準値、検査依頼者情報、検査分析方法など)とその表現方法まで踏み込んで規定する。

4.仕様内容の概略
4.1.MERIT−9文書群の構成

・1つのMML文書には1人の患者情報が記載される。
・図2に示すように、MML文書から1または複数の外部オブジェクトが参照され、全体としてMERIT−9文書群を構成する。
・外部オブジェクトには、検体検査結果の場合はHL7文書が、画像の場合にはDICOM文書やJPEG文書などが、それぞれ用いられる。
・外部オブジェクトの指定は、MML文書の位置をベースとした相対パスによる。その際、
MML文書は、外部オブジェクトを含んだファイルセットの最上位のディレクトリに配置される。
・相対パス指定のための、外部オブジェクトに用いられるファイル名、ディレクトリ名に利用可能な文字セットは、英大文字、数字、”_”(下線)とする。
・ファイル名は8文字までのファイル名文字列、”.”(ピリオド)、3文字までの拡張子文字列で構成される。拡張子がない場合はピリオドを省く。ディレクトリ名は8文字以内とする。
・2以上の情報源からのMERIT−9文書群をマージした場合、ファイル名、ディレクトリ名が衝突する場合は、マージするシステムが、名前の付け直しなどで対処する。
・1つの媒体内、あるいは1伝送単位内に、MERIT−9文書群が複数ある場合でも、文書群に対するメタ情報となるディレクトリファイルは必要としない。

4.2.MERIT−9文書群適応事項

・情報交換のための、伝送方法、媒体については規定しない。但し媒体の場合、FD, MOD では PC File System形式、CD-R, CD-ROM では ISO9660形式、アーカイブでは TAR形式が、現時点では推奨される。
・使用できる文字セットは、1バイト系ではISO646(ASCII), JIS X 0201、2バイト系ではJIS X 0208, 0212とし、ISO2022手順によって基礎となる1バイト系から呼び出される。用いる文字セットのレパートリはMML、HL7、DICOMなど、それぞれの規格内で宣言される。
・患者ID情報などは、MML文書内あるにもかかわらず、外部オブジェクト内にも、存在することがある。これは外部オブジェクトの単体としての完備性のためである。MERIT−9文書群を解釈するシステムは、MML文書内の情報を優先する。

4.3.画像外部オブジェクト適応事項

・詳細については、安藤先生の文書をご覧ください。
・1つのMML文書から、動画像、多枚数の静止画像を参照することができる。
・画像ファイル形式は、DICOM, IS&C, TIFF, GIF, JPEG, RAW, MPEG2とし、圧縮は仕様として規定しない。
・DICOM形式の場合には、DICOM規格Part10で規定されたメタヘッダを有する。
・MERIT−9文書群の外部オブジェクトがDICOM規格ファイルのみの場合は、MML文書を省略できる。

4.4.検体検査結果外部オブジェクト適応事項

・詳細については、川真田さんの文書をご覧ください。
・1つの外部オブジェクトには、1検体採取単位の情報が記載される。
・1つのMML文書から、複数の検体検査結果ファイルを参照することができる。
・検体検査結果ファイル形式、エンコーディング形式は、HL7v.2.3形式とし、検査項目コードには、日本臨床病理学会臨床検査項目分類コードを用いる。

4.5.処方外部オブジェクト適応事項(参考)

・1つの外部オブジェクトには、1処方箋単位の情報が記載される。
・1つのMML文書から、複数の処方ファイルを参照することができる。
・処方ファイル形式、エンコーディング形式は、HL7v.2.3形式とする。
・用法コードには、病院薬剤師協会用法コード(制定中)、あるいはHL7の用法記述方式を用いる。
・薬剤コードには、診療報酬請求用薬剤コード、あるいは薬事審議会承認コード(存在しない)を用いる。
・MML文書上のタグ項目は、医師法に定める処方箋記載事項とする。