キヤノン販売が開発した電子カルテシステム、キヤノカルテ(CanoCarte)について最新導入ユーザであるキヤノン株式会社キヤノン診療所を参考例としてご紹介させていただきます。
1.システムの特徴
キヤノン電子カルテシステム、キヤノカルテはテキストデータや数値を含めた検査データ、シェーマ、医用画像等のマルチメディア医療情報を統合し、デジタルで管理・運営するデータベースシステムです。
キヤノカルテは診療、医用画像、オーダリング、検査結果のそれぞれを独立した4種類のサブシステムで構成される分散型クライアント・サーバ型データベースシステムで構成されます。分散型データベースシステムの採用により、さまざまな医療現場で発生する多様な診療データを効率良く登録・管理・運用することが可能となります。
では実際に導入されているキヤノン診療所を例にご説明を進めさせていただきます。
キヤノン診療所は企業内診療所で入院設備はなく、外来だけの診療所です。診療科は内科、整形外科、皮膚科、眼科、放射線科、耳鼻咽喉科〔予定、98年7月より)、歯科の7科となっていまが、歯科では電子カルテシステムは稼働しておりませんので、実質は6科目となります。
1日の外来数は平均100名、最大で約130名程度です。職員は医師23名、薬剤師1名、看護婦4名、検査技師1名、放射線技師3名、事務2名の構成ですが、常勤医師はおらず大部分の医師は週1回の交代勤務となっています。検査機器はCT、MRI、一般X線、胃透視X線、内視鏡〔胃及び大腸)、超音波、眼底カメラ、心電図があり、検体検査は大部分が外注検査です。
1.システム要求
診療所には電子カルテシステムがこの1月より導入され、ドクターは各診察室に設置されたマッキントッシュよりカルテ内容の入力を行います。すべての診療データはサーバシステムにより管理され、必要に応じてクライアントであるマッキントッシュに患者情報(カルテ情報)を表示することができます。
発注者であるキヤノン株式会社及びキヤノン診療所からはシステム導入に当たって次のような要求がなされました。
2.システム構築
(1).ネットワーク構築
院内は当初からイーサネット配線を前提として工事が行われましたので診療施設内にネットワーク及びパソコンを敷設し診療施設内ではどこからでも患者の来院状況や診療記録を閲覧することができます。イーサネットは100Mbpsを基本としクライアントへはスイッチングハブ経由で高速性を確保しました。電子カルテでは医用画像などの大容量データが頻繁に流れるためネットワークの高速性は重要になります。
(2).データベース構築
キヤノン電子カルテシステム(CanoCarte)はすべてのデータを電子カルテサーバに収納するものではなく、各サブシステム及び各サーバに分散された分散型クライアントサーバデータベースシステムにより構築されます。具体的には診療データベースサブシステム、医用画像データベースサブシステム、オーダーリングデータベースサブシステム、検査結果データベースサブシステムの4つのサブシステムが稼働しています。これらのデータはクライアントであるマッキントッシュ上で初めてカルテデータとしてまとまります。このように分散型のデータベースシステムを採用することによりさまざまな臨床現場で発生する患者に関する診療記録を効率良く登録・管理・運用することが可能となりました。
また下丸子診療所ではすべての医用画像データをデジタル化して扱うため医用画像データベースにはワークステーションサーバを、その他のデータベースにはNTサーバを採用しました。
(3).健診データ閲覧
本社地区所属の社員には毎年の健康診断実施後、光カードに健康診断結果を記録していますので、これを診療の際にも利用したいとのドクターの要望によりシステム構築を行いました。当初は各診察室で患者自身がドクターに光カードを提出し、その場でリードし内容を表示しようと考えましたが、残念ながら現行の光カードがマッキントッシュではリードできないことが判明し、受付処理と合わせて受付にて患者の承諾を得たうえでリードしデータベースに登録することとなりました。これにより初診で来院した患者などの基礎情報をドクターが閲覧することができ診療に役立てることが出来るようになります。
(4).カルテデータの光カードへの記録
カルテデータの一部は患者サービスの一環として光カード上に書き込まれます。書き込みは患者自身が診療所内に設置されたパソコンによりいつでも自由に記録することができます。また内容の閲覧は同じく院内のパソコンか本社健康管理室に設置された光カードシステム用パソコンで行えます。最終的に閲覧できる内容は身体特徴(身長・体重)、バイタルサインデータ(体温・血圧・脈拍)、投薬・注射データ、検体検査結果データです。
3.システム構築上の特徴
(1).電子カルテではすべてのデータをデジタル化して記録・管理・運用する必要性がありますが、実際の病院内では医用画像データなど大半のデータがデジタルデータとしてのインターフェイスをもっていません。そこでこれらアナログデータをデジタルに変換する必要がでてきます。今回は特に各種検査機器よりアナログ出力される医用画像データを、新たに開発したゲートウェイパソコンによりすべてDICOM3データフォーマットに変換して、ネットワーク上に流すことに成功しました。当初は画面キャプチャーでのデジタル化を検討しましたが、データとしての統一性が無く運用上の問題点も多いことから上述のような方法を採用しました。
(2).キヤノン販売ではオーダリング、レセプトシステムといった医事会計関連アプリケーション、検体検査データベースなどのシステムを取り扱っていませんので、これらを扱うシステムベンダーと業務提携により電子カルテシステムを実現しています。今回はオーダリングサブシステムを三菱事務機械株式会社、検査システムを日本電子開発株式会社にご担当いただきシステムを構築しました。前述のように4つのサブシステムが有機的に結合する分散型クライアントサーバシステムにより電子カルテを実現させています。
(3).下丸子診療所では検体検査を外部委託しているため、従来検査結果は印刷物にて返却されていました。これではシステムに結果データを取込みにくいため検体検査委託会社に依頼しFDにて返却してもらうこととし、検査依頼内容とリンクを取りながら自動登録できるアプリケーションを構築しました。
4.システム運用
下丸子診療所のドクターは常勤ドクターがいないためオペレーション指導を含めドクターのオペレーション習得には相当の時間がかかると予想してましたが、大半のドクターがマックの経験者であり予想よりはるかに短い時間で習得していただきました。またナース以下医療スタッフの協力も大変に重要な要素ですが、この面でもマックによる操作性の良さによりスタッフの方々の操作習得度が早期に高まり、ドクターへの高いサポート力を発揮していただくことができました。
運用上では主訴・所見等の入力項目がすべてプルダウン・ポップアップ選択項目に登録されていないため、当初入力に時間がかかりましたが、英語またはドイツ語での入力などを併用した結果入力スピードが改善し習得度の向上と相まって全体のスループットが向上し、単純な風邪などでの来院の場合、受付から会計まで15分程度で診療を受けることが可能となりました。
また診察室において健診データが閲覧できることや時系列での診療データの参照、前回処方の利用などにより電子カルテ導入の効果が現れつつあります。さらにマックの画像表現能力の高さにより診察室にてすべての医用画像が表示できるため、診療支援が行えるとともに患者への説明やインフォームドコンセントにも利用できます。
5.将来計画
(1).現システムでは最終的なレセプトシステムとのオンライン連携がされていないので、次期システムではオンライン連携により完全自動化システム導入を図ります。
(2).光カードを完全な診察券として利用することにより、今回はできなかったユーザによる受付処理を実現したいと考えております。特にカルテデータ記録システムと同時運用することにより、患者自身の健康管理システムと合わせてデータの統合化を行い、ユーザ自身が電子カルテを活用できるシステム構築を目指します。
(3).臨床面では今後は主訴・検査結果や臨床病名から診療プロセスの自動生成ができるような電子カルテを開発・アップグレードし、ケアマップ型電子カルテシステム構築を最大の目標とします。
(4).現在は下丸子メディカルセンターと同等の施設は他の事業所にはありませんが、今後他事業所にも同様な施設を設け電子カルテシステムを導入、転勤や移動があった際もカルテ内容がオンラインで利用・移動できるような電子カルテシステムを構築し、全社的な健康管理システム導入を検討します。