国立スポーツ科学センターは,いろいろなスポーツ科学の知見を総合して,トップアスリートのための科学的サポートをする機関である.スポーツ科学は,スポーツ医学,スポーツバイオメカクス,スポーツ生理学,スポーツ心理学など,スポーツと名のついた多くの学問分野の総体である.それぞれの分野での研究成果を,より総合的なサポートとして活かそうとということがねらいである.そのためには,総合的なデータの分析や,長期的なデータの蓄積が必要になる.これは,また,そこからスポーツ全体の質を高め,よりよいスポーツを多くの人が楽しめるようにするために役立つことはいうまでもない.
ところが,総合的,長期的なデータの収集ということは題目としてはすばらしいが,実際にやってみようとすると数々の困難がある.
データを作り出すそれぞれの測定装置は,個別のインターフェイスをもち,外部の機器とのデータのやり取りはあまり考慮されていないものが多い.ある装置はPCにつながったRS-232Cで制御しなくてはならない,別の装置はMacintoshに接続されているとか,ある機器のアウトプットは特殊なフォーマットのファイルになるなどである.
それらの多様な装置は,コントロールするコンピュータも違えば,そのインターフェイスも違う.それらの個別の測定装置を1つのコンピュータで制御するようなことは不可能である.
測定機器は,どれも結局コンピュータによって制御はなされているので,それらをネットワーク化し,それぞれをネットワークから利用して,そのデータをまとめるという方法が有効である.
また,装置の組み合わせなどは,実験によりことなるので,変更しやすいことが重要である.そのつどプログラムを作っていては大変である.筆者は,Mathematicaというインタープリター型のソフトウェアを用い,そのソフトウェアに様々な測定装置を利用する関数を設けて,その関数を組み合わせることで柔軟に多様な実験装置を接続できる環境を構築することができた.参考文献[2]
また,スポーツ科学に利用されるデータには,測定装置からのものだけでなく,多くの学問分野にわかれ,また学際的分野であるため,多種多様である.記録などの数値や順位のデータから,運動の動画像まである.これらのデータは,それぞれの学問分野で個別にデータ処理などに利用されているが,それらを相互利用できるような形でまとめられてはいない.また,研究的に,そのような多様なデータを,長期的に保存しながら利用するということはあまり行われていなかった.
データの多様性を解決できる方法のひとつにデータの構造化がある.あるデータを,それに必要な情報とともに構造的に記述できれば,それを後から再利用,解釈することができる.その点では,データの構造的定義をおこなっている研究DandDプロジェクトが参考になる.このデータ定義は,当初は,リスト表現に近いものを使っていたが,現在は,それをXML定義に書き直している.このD&Dプロジェクトのデータ定義を拡張してスポーツデータの定義とすることにより,多様なデータを再利用できるように定義することができる.特に,スポーツの分野では,動画などの映像と,それと同期した数値データなどがあり,同期のための情報を追加するなどの定義が必要であった.今後も,いろいろなデータを検討する必要がある.
以下がDandDによるスポーツデータの表現の一部である.
<?xml version ="1.0" encoding="Shift_JIS"?><?xml-stylesheet type="text/xsl" href="DandD.xsl" ?><!DOCTYPE DandD SYSTEM "DandD.dtd"[ <!ENTITY UnitDefinition "ここで用いてる単位Nは,質量1kgの物体に1m/s^2の加速度を生じさせる力の大きさを1Nとする単位である.">]><DandD> <Title>突き技の衝撃力と加速度 </Title><Data> <Relational LongName="ボクサー"> <Value RefId="ID.B"/> <Value RefId="Acceleration.B"/> <Value RefId="Force.B"/> <Value RefId="Time.B"/> <Value RefId="Round.B"/> </Relational></Data><DataBody> <DataVector Id="ID.B" LongName="ボクサーのID" Length="153600" Unit="seconds" > <Script> rep(seq(1,10),rep(15360,10)) </Script></DataVector><DataVector Id="Acceleration.B" LongName="加速度"Length="153600" Unit="meter/seconds^2" URL="sports/boxing1"></DataVector><DataVector Id="Force.B" LongName="衝撃力" Length="153600" Unit="N" Definition="&UnitDefinition; " URL="sports/boxing2" ></DataVector></DataBody></DandD>
また,スポーツ医学の分野では,研究のみならず,いろいろな診療活動を行っており,医学の分野に包含される分野である.そこでは,当然今後の流れとして電子カルテなどの利用が考えられており,そのデータとスポーツデータの統合的利用も検討する必要がある.ただ,DandDプロジエクトにしろ,MMLにしろ,ベースはXMLということになっているので,整合性はとりやすいと考えている.
まだ,スポーツデータ定義などは,取り組みがはじまったところで,これからいろいろな分野について,全体との整合をとりながら定義を作っていく段階にある.先行しているMMLや,その他のXMLツールの整備状況をみながら,使いやすいものを目指していく必要がある.
[1] 柴田里程他:http://www.stat.math.keio.ac.jp/DandD/index.ja.html
[2] 宮地 力:Mathematicaによるネットワークプログラミング,岩波コンピュータサイエンスシリーズ,1998