ネットワーク型電子カルテによる
病院・診療所連携情報システム

 

大嶋 比呂志

株式会社ハーバー・ソフトウェア


1.現状

現在の大阪府下の診療所では診療データが電子保存している診療所は極めて少ないが、基幹病院においては、電子カルテの導入が進行中である。医療を取り巻く環境は情報開示、医療費の抑制等極めて厳しいものがあり、診療データの電子保存等への地域での期待は大きい。また、病診連携・診診連携等も現状は紙や電話をベースとしており、例えば診療情報提供書は紹介先の病院へ患者さんが持参するかファックスによるが基本となっている。一方、診療において発生する様々なデータを電子化、保存、流通させることは現在の医療をより高度化、効率化することは予測されるが、セキュリティへの対応及びハード・ソフト購入費用等は特に診療所では大きな負担である。特にセキュリティやネットワーク化は目に見える形で費用効果を出すのが困難な事項であり、社会インフラとして構築されることが望ましいが、大都市にこのようなインフラを整備していくには費用面等でかなりの困難もある。前述のような理由から大病院での電子カルテの整備等は進んでいるが、地域全体で電子保存された診療録が診療目的(一次利用)やEBM(科学的根拠に基づく医療)や統計のため(二次利用)ぁ!N%G!<%?%Y!<%92=$d6&M-2=$KM-8z3hMQ$5$l$F$$$J$$$N$,8=>u$G$"$k!#

 

2.目的

医療需要が質的かつ量的に拡大する一方、高度化・専門化する技術・知識への対応、医療資源の抑制、患者の権利意識の変化など、医療を取り巻く内外の環境はかってないほど深刻なものとなっている。電子カルテ(ElectricPatientRecord:EPR)に代表される診療情報の共有化はその問題解決の最優先目標の一つであり、そのためには実現のシナリオと医療情報学的手法の導入手順が必須である。医療は、常に受療者からの問題抽出、問題解決のための作業仮設設定、治療行為とその記録からなる一連の過程であり、本質的には情報処理伝達過程(フィードバック・プロセス)とみなすことができる。 このプロセスの中で重要なのは、すべての行為が記録されることであり、この記録を紙媒体から電子媒体に変えることが電子カルテ導入の基本コンセプトである。

一方、大都市圏では通常の地域には見られないいくつかの特徴がある。一つは通勤圏の広さに見られる地域的広がりであり、もう一つは膨大な人口である。 この二つの特徴のため大都市圏の1自治体が電子カルテの共有システムを構築するのはきわめて困難であり、共有システムを構築したとしても十分な機能を発揮できないおそれもある。 また、この特徴は営利企業がサービスを行うには有利であり、狭い地域に集中した診療所、病院等があるため1機関に必要なサービスのコストはかなり安くできる。 これらの特徴を生かしてネットワークを利用してデータを共有する電子カルテシステムを構築し、民間企業による診療データ共有化のフィージビリティスタディとして今回の開発及び実証をおこなうとともに、複数の自治体にまたがる機関病院と診療所の診療データの交換システムとそれに必要な認証システムを構築し後年に残して運用することにより大都市圏における診療データ共有を目指す。すなわち、本プロジェクトは、診療情報連携支援センターを設置し、このセンターに

1)ネットワークを介した電子カルテの提供

2)既存電子カルテを含めた診療情報のバックアップ機能

3)病診連携における診療情報交換の支援機能

4)これに伴うセキュリティーの確保

の4つの機能を保有せしめネットワークを用いた診療情報の電子化の促進とその効率的な交換を確立することを目的としている。このためには、

1)ネットワークを利用したASPとしての電子カルテの開発

2)電子カルテ(新設・既存を問わない)からの主要診療情報の抽出とその保持のためのシステムの開発

3)病診連携のための診療情報の提供に関わる、診療所側、及び病院側のシステムの開発4)これら全般にかかわるセキュリティー確保のためのシステムの開発

が必要であり、これらの完成を目標としている。

 

3.システムの構成

(1) 全体構成大阪府下の大阪医科大学医学部付属病院・大阪市立大学医学部付属病院・大阪大学医学部付属病院・国立大阪病院の4病院と複数の診療所を結ぶ病診連携機能を持った診療所向け電子カルテを開発し、センターサーバを経由して基幹病院と診療情報提供書等の連携をネットワークを介して実証する。全体の概念図は下図(図3.1)の通りである。

 

(2)診療情報連携支援センター(以下 センター)ネットワーク全体の支援センターであり、情報連携に関する全体へのサービスを行う。 センターには下記に記述するサーバがある。

1)電子カルテ支援サーバネットワーク型電子カルテのプログラムサービスと既存電子カルテのバックアップサービスを行う。

2)メッセージ交換支援サーバ病診連携・診診連携のためのデータ交換を行うサーバであり、XML化された診療データの交換を行う。

3)セキュリティサーバネットワーク全体の交換データに対して、電子署名の証明等の公開鍵方式による署名や暗号化のキーの供給等を行う。

(3)診療所システム電子カルテと医事会計システムから構築される診療所システムである。 診療所システムは下記の2タイプを用意する。

 1) ASP(アプリケーションサービスプロバイダー)サービスの仕組みによりネットワークサービスと連結した電子カルテを中心とした診療所システム。

 2) 既存の電子カルテにバックアップ機能とメッセージ交換機能を付け加え、本開発実証用に改造した電子カルテ。

(4)病院システムセンターのメッセージサーバを使用して診療情報提供書等の交換を行う為の機能病院により下記の2タイプのものを用意する。

1)自動作成タイプ病院情報システムよりデータを抽出して、メッセージサーバに出力するデータを自動的に生成する。

2)支援タイプ病院情報システムとの連携はしないが、診療情報提供書の作成支援ツールを作成しメッセージ交換支援サーバに送出する。

(5)ネットワークネットワーク全体で常時接続タイプとする。 セキュリティ上の問題に十分配慮してVPN、独自ネットワーク等を最適に組み合わせて作成する。 ネットワークとしての付加価値をつけるためにもインターネットへの接続は可能なものとし、診療所のIT化に寄与するものとする。

(6)サーバ設置環境ネットワークのセキュリティ対策が十分だとしても、サーバ設置環境が不十分であれば、外部からの物理的侵入、停電等ネットワークシステムとしては十分ではない。 今回は実証実験とはいえ実診療に使用いただくことを前提としているため、サーバ設置環境にも十分な配慮を行う。

 

4.終わりに

大阪での電子カルテへの取り組みは電子カルテそのものの診療所での実証実験と、紹介状連携に大別出来る。 電子カルテそのもののデータ共有には今回は踏み込んでいない。  電子カルテを利用した診療が一般的な診療になり、データ共有が社会に受け入れられていく過程で、電子カルテそのもののデータ共有の問題は提起されると考えるが現在迄の取り組みでは、その場合のデータの統一は極めて困難であった。 電子カルテデータの共有のメリットを概念としては理解出来るが、現実に経済的インセンティブが働き一般の診療所に受け入れられていくストーリーが見えていないのが大阪での現状である。 本実証実験においてこれらの課題にたいするアプローチの一部でも見えてくることを期待している。