統合情報システム(SHIMANE-IIMS)運用の実際
とそのメリット、デメリット、課題

 

清水史郎、中村嗣、高垣謙二、川合政恵、岩本幸治、沖一、*瀬戸山元一、中川正久
島根県立中央病院、*高知県立・市立病院組合

 


統合情報システム(SHIMANE-IIMS)現状の要約

島根県立中央病院は病院全体を管理・運営するシステムとしてコンピュータ・システムの導入を企図し、電子カルテシステムを内包するSHIMANE-IIMSを開発、1999年8月稼動を開始させ、1年9ヶ月を経過した。SHIMANE-IIMSは目的として、『医療の質の向上』『患者サービスの向上』『病院管理運営の効率化』の3点を掲げ、電子カルテとしての機能のほか、各種部門システム、院内インフォメ−ションシステム、経営管理システム、実績算定システム、後利用システム、物流システムなど病院管理・運営に必要な主要システムを搭載し、各システムはシームレスに連携している。院内基幹業務の大部分はこのシステムで業務が行われ、全職種、全業務が入力、閲覧に関わるシステムである。厚生省三局長通知『診療録等の電子媒体による保存について』による三原則(真正性、保存性、見読性)とそのガイドラインに従った運用管理規程を定めて管理を行っている。診療情報は一元管理のデータベースに保存され、医療面、経営面双方の後利用も可能である。稼動開始後1年9ヶ月を経過した現在、診療業務の効率化、医療の質の向上、患者サービスの向上、経営の効率化への寄与が明確となってきた。今後の目標としては、SHIMANE-IIMSを基幹として出雲圏域、隠岐圏域との共同事業として、地域医療のネットワークの展開を構想しているところである。今回はそのシステムの現況とメリット、デメリット、および課題について整理する。

 

統合情報システム開発の特徴

SHIMANE-IIMS開発の特徴は次の二点でほぼ言い表わせる。

統合情報システム構築の基本コンセプトは『共有化、一元化、標準化』である。

統合情報システム開発のコンセプトは『病院システムの開発』である。

われわれは、『システムの開発』と『システムの導入』を厳然と区別した。『システムの開発』は病院の運用にしたがった形にシステムを構築し、運用することであり、『システムの導入』は既成のソフトを持ち込み、それに従った形に病院運用を対応させることである。『システムの開発』はコンピュータを病院にとって都合よい形で、駆使することであり、『システムの導入』は既成のシステムに従って医療を行うことである。あくまでも病院の運用を徹底的に検討し、決定し、それにしたがった形でシステムを構築することこそがシステムの開発であると考え、この点は共同開発業者の決定から、稼動に至るまで当病院がもっともこだわった点である。既存のパッケージソフトを可及的に使わずに、基本コンセプト『共有化、一元化、標準化』にのっとりシステム全体を作り上げることが、『開発』であり、われわれ医療従事者にとって、あるいは患者にとって意味のあることである。この開発コンセプトを確立し、終始一貫して、職員に対しても繰り返しこの点を周知し、形だけのコンピュータ導入に終わらないよう努力をしたこと、そして全職員がシステム開発に参加したことが当院の開発の特徴と言える。この点は使い勝手の良し悪し、診療効率への影響、電子カルテ教育への影響のあるところであり、開発および運用上最も重要な点と考えている。

 

統合情報システムの特徴

ハード構成およびソフト構築の仕様が決定されて、運用概念の徹底した検討の中から運用フローの決定、画面構成の決定、マスタの作成、搭載、検証の過程を経てシステムは完成した。このシステムの特徴について整理すると、(1)病院全体を管理・運営するシステムとして機能すること、すなわち、このシステムは中核に電子カルテシステムを内包する病院の管理運営システムであること、(2)したがって、全職種、全業務が入力、閲覧に関わるシステムであり、業務ごとに異なるアクセスルートを有すること、(3)情報の共有化と一元化管理によるペーパーレス、フィルムレス(不完全:後述)運用を実現していること、(4)24時間稼動で、休止期間のないこと、(5)システムダウンに対応する冗長性とダウン時の対応策を内臓すること、(6)今後の運用の変化に適応し、成長するシステムとしての自由度を有し、テンプレートツールの作成やマスタ変更が容易にできること、(7)目的に応じたデータの分析・評価と活用を可能とする後利用のできること、(8)三局長通知とそのガイドラインに従い、改竄防止、情報漏洩の防止などのセキュリティーの確保に対応できていることを特徴とする。

 

診療録記載(外来カルテ、入院カルテ):ツールとマスタ

SHIMANE-IIMSへのログインはID番号と8ケタのパスワードで行われる。病院職員には個々の項目マスタについて更新権限、参照権限、権限なしの三段階の権限が付与されており、アクセス制御がかけられる仕様としている。

統合情報システムは全職種が使用するシステムであり、各職種に応じたアクセス・ルートがある。医師は診療業務から、看護婦は看護業務から、受付事務は受付業務からそれぞれアクセスする。

以下にマスタとツールにつき、医師の記載を中心に記述する。診療業務を展開すると、4つのコンポーネントからなる画面が開く。病名・プロブレム・リスト、ツール・ボックス、今回カルテ、過去カルテである。このシステムの特徴はこの1画面、4つのコンポーネントをプラットホームとして、医師の行うほぼすべてのカルテ記載ができ、すべての指示オーダーができ、かつすべてのレポート(検査結果)参照ができることである。カルテ記載に必要なツールはツールボックスに、指示に必要なツールは今回カルテの指示ツール起動タブに搭載されている。この画面でおこなった記載は、すべて関連部門へ、カルテ保存と同時に、自動的に伝達される。また伝達された指示の実施とレポートの作成は無意識のうちにデータベース化され、指示実施データあるいはレポートデータとしてこの画面に再構成されて報告され、後利用への使用も可能となっている。

ツール・ボックスには診療業務の記載に必要な61ツールが準備され、診療効率を高めるよう、カルテ・セット(必要なカルテ記載や指示項目の組み合わせ)やクリティカル・パスに相当するオーダー・マップあるいは以前に行ったカルテ記載や指示の転送が可能な仕組みが組み込まれている。指示ツールはいわば、指示伝票であり、個々の指示伝票が形態を変え、予約枠を含む機能的な指示伝票として準備されている。出された指示は自動的に関連部門に伝達され、患者が受診に向かう時には部門の受けつけでは、部門受付一覧に患者名が表示され、迎える準備ができているということである。勿論医事会計にも情報は伝達される。部門で行われた検査あるいは治療は実施入力以後には、実施済みとして、カルテのP欄に展開され、結果も自動的に患者カルテのレポート参照ツールに、時系列に報告される。従って、検査が終了して患者が診察室に戻った時には、結果の報告があり、診察室で説明が可能な状況となっている。

このカルテには、外来カルテと入院カルテの区別はなく、すべての情報が時系列記載される。データベースへの保存上、外来・入院の切り替えと入院病棟の選択は便宜上必要であり、今回カルテ上にある外来・入院切り替えボタンを押すことによりワンタッチで切り替え可能である。また全ての記載は職種にかかわらず時系列記載され、職種の違いは背景色で区別される。また、SOA記載については職種別あるいは診療科別のソートが可能である。

看護業務についても、使用するツールは異なるものの、医師の業務とほぼ同様の仕様となっている。看護業務は医師の業務以上に完結性が高く、また標準化が可能である。マスタの整備により効率化の向上は著しく、看護記載はフォーカスチャーティングで、指示受け、指示実施はカーデックス、患者スケジュールで行われる。また経過表記載、ベッド・コントロールもそれぞれのツールが準備されている。医療技術者については、記載はほとんど部門システムで行われるが、栄養管理士による栄養指導、薬剤師による服薬指導などは、各担当者に更新権限が与えられ医師同様の記載が行える設定である。

 

後利用

 

データが共有化、一元化された結果、医学的あるいは経営上の情報取得がきわめて容易となり、学会報告のためのデータ整理や経営分析上のデータ取得が日々実施されている。日々の科別外来受診患者数、入院患者数、ベッド稼働率などは自動的に集計されており、誰もが参照可能である。月々の経営データも各担当者には配布される。医学的にも、経営上も病院の透明性が高まっている。

 

ペーパーレス運用

ペーパーレスに関しては、ほぼ完全な形で運用がなされ、(1)法的に残さざるを得ないインフォームド・コンセント、紹介状、診断書、証明書、院外処方箋、麻薬処方箋、デジタル化の必要性の乏しい特殊検体検査報告書、筋電図、脳波、ホルター心電図、平衡機能検査、眼振検査は必要な書式あるいはレポートのみをデジタル情報として保存し、実記録は医療情報管理科で患者ホルダーに保存している、(2)患者の不安解消のための基本カード発行、次回検査のための説明書、手渡し用疾患説明資料など診療録として保存する必要の無い書類も最低限の紙運用をしており、(3)旧病院の紙カルテも要求があれば搬送している。ペーパーレスはそれ自身が目的ではなく、データの共有化、一元化、効率化の結果であり、あえて紙をすべて無くする必要はない。データの共有化、一元化、効率化に障害とならない限り便利であれば、使用すれば良い。現状で達成すべき点はすべて達成していると考えている。残る紙運用は電子認証など法的整備が整えば、解消していく予定である。

 

フィルムレス運用

フィルムレスに関しては、デンタル(歯科)画像、動画像を除く全画像情報を端末で参照可能としている。ただし、診断の精度を増すため、必要に応じフィルムをプリントアウトししているのが現状であるが、要求の無い限りプリントアウトしないという決定をしており、一度使用されたフィルムが医療情報管理科より搬送される数は1日25件に満たない。実診療のほとんどは端末での画像を参照して行われているのが現状であるが、情報技術の向上をまって、完全なフィルムレスへ移行する予定である。なお、PACSコーナーは完全なフィルムレスで運営されている。

また、心電図や内視鏡画像などについてもペーパーレスのところで記載したように、すべてデジタル化され、運用されている。

 

統合情報システムのメリット

統合情報システムのメリットをあげると、まず、統合情報システム自身のメリット以前に、システム構築のため、すべての業務運用の見直し行い、業務の標準化、一元化、マスタ化を行い、運用概念図への集約、その掲示板への搭載による運用の徹底をおこなったことが院内ルールの確立、さらには院内意思決定機構の確立につながり病院運営の基盤を固める結果となったことが最も大きいメリットといえる。統合情報システムのメリットに関しては、非常に多くのメリットが挙げられるが、整理をすると、ペーパーレス、フィルムレス運用により紙カルテ、診療諸記録、各種管理記録・帳票が不要となり、それに伴い整理、保管業務、保管庫も不要となった。さらにそれらの検索、搬送も不要となり、紛失の危険もなくなった。情報の一元化、共有化の結果、スムースな対診、電子カンファランスも可能となり、難解な文字の解読・判読、指示情報の転記は全く不要となった。24時間稼動であり、カルテへのアクセスは何時でも、どこでも可能となり、文書の作成も容易となった。医師記録・看護記録は無意識下にピア・レビューが行われている状態であり、オープン化されたその意識が診療の質の向上に貢献している。診療情報がデータベース化された結果、医学的情報、経営情報の後利用は容易となった。そのデータは日々の業務の検討に供され、データベースより病院管理記録は自動作成されるため、いままでそれらを作成していた看護婦は日々の雑務から開放された。

 

電子カルテシステムのデメリット

メリットの要素が極めて高く、デメリットの部分は乏しいが、下記に挙げる項目は現時点でのデメリットであり、今後解決されていくべき問題点である。

(1)システムダウンの危険性:電子カルテシステムはコンピュータという機械である以上、何らかのトラブルで機械が停止する可能性は不可避である。過去一年間に復旧に40分から2時間を要したトラブルが3回あった。二重化したシステム構成から復旧は速やかであったが、さらに機敏に対応するため、新たにシステムダウン時の対応システムを構築した。この対応システムでは、システムダウン時にも、当日のダウン時までの受付情報や受付患者のカルテが使用可能である。

(2)大災害によるデータ消滅の危険性:この点は、紙カルテにおいても同様の危険があるが、電子カルテシステムにおいては、遠隔地転送・保存の方法があり、地域医療のネットワーク化の中で解決を計っていく構想である。

(3) コンピュータ機器の性能向上、償却への対応:将来の課題。

(4)初期教育の必要性:コンピュータ・リテラシーについては、今後当院の職員となる医師、看護婦等については特に心配する必要はないものと考えている。電子カルテの教育については過去2年間の新入職員に対して施行し、順調に学習できている。これまでのアンケート調査では、医師の場合、1週間の集中教育ののち、45%は2週間以内で、77%は一ヶ月以内にマスターしたと回答しており、日常診療に支障をきたすことなく習得していると考えている。

(5)情報の一覧性の問題(画像情報、検体検査、熱型表など):端末の性能向上やコストの低廉化による複数モニター使用や複数端末使用が解決するであろう。

(6)表示スピードの問題:画像等の表示スピードは十分日常診療に耐えるが、早ければ早いほど良い性質のものであり、あえていえば、現状のデメリットではある。データベース・ソフトのtuningなどでかなりの改善は得られるが限度はあり、LANにこれ以上の要求をすることもできない現状では、端末性能の高速化を待つしかないものと考えている。

(7)セキュリティーへの脅威:プライバシーの保護、情報漏洩防止などシステム上の保護、運用の徹底を要する。院内の閉鎖回路である現状では、職員へのルールとモラルの徹底を計ることがとれる最上の方法である。

 

職員の満足度、患者の満足度、経営への影響

システム運用に関する種々のアンケート調査により、職員の満足度、患者の満足度についてはおおむね満足の得られている状態であり、集計中の医師のアンケート結果では電子カルテが紙カルテに比し有用としたもの77.6%、電子カルテの方が紙カルテより使い勝手が良いとしたもの56.1%、一方、紙カルテの方が使い勝手が良いとしたものわずかに1.5%であった。システムの経営におよぼす影響についても、新病院開院後、外来患者数、入院患者数とも増加し、旧病院で診察できた以上の効率で診察ができていることも間違いがない。統合情報システムの経済性に及ぼす影響については、予想以上の好結果を生み出しており、現状は充分満足すべきものであるが、長期的に見た経済効果に関しては今後のデータをまって報告する事としたい。

 

今後の課題について

今後の展望としては、情報技術のハ−ド、ソフト両面わたる急速な進歩が予測され、情報機器の低廉化も予想されるところであり、表示スピ−ドの高速化、端末の並列使用など、現状のシステムの欠点を補うことが可能となり、システムの導入はより容易となる。当院における、電子カルテシステムの課題としては、デメリット解消のためのversionup、今回搭載する事のできなかった各種のシステム、図書システム、事故対策システム、感染対策システム、チェックシステムなどを搭載して、完全な病院管理運営システムにしていくことが当面の課題である。病診連携システムもその一つであるが、地域医療への展開は経済産業省が既に推進しているところであり、当施設においても準備を始めているところである。全国的にインターネット、高速通信網などインフラは既に整備されつつあり、ひとたび電子カルテ化が達成されれば、情報が相互に利用できるようネットワーク化されるのは自然の流れである。ネットワーク化の課題としては、用語の標準化、データ交換規約、プライバシー保護、セキュリティーの確保、ネットワーク診療の是認、診療録電送と真性性の確保、広告規制の緩和など、整備すべき問題が多い。今年度は多くの施設がこれらの問題点に立ち向かい個々の結論を出していくことと思うが、これらの問題点が解消されたとき、電子カルテシステムのメリットは一段とスケールアップするであろう。