診療スタイルに即した電子カルテ「あんしんチャート」

永野 正史
イーホープメディカルセンター


1.はじめに

コンピュータの操作及び入力業務の複雑さを減らすことは、電子カルテ導入・普及における最重要課題の1つである。しかし、我が国における患者・医師のヒューマン・インターフェイスを考慮した使いやすい電子カルテシステムは未だ実現されていない。このソフトウェアは、「システムに診療スタイルを合わせるのではなく、診療スタイルにシステムを合わせる次世代型電子カルテ」として、三井記念病院在籍・出身の医師を中心とする専門医グループ「メディカル・ブレイン」の指導を仰ぎ、「簡単に導入できて、その日から使え、医師の作業を大幅に短縮、軽減できること」を第一に開発した。

 なお、電子カルテに医事会計システムを組み込み、レセプトまで自動的に発行するのが理想ではありますが、そのためには、医事会計のルールを考慮した入力が必要となり、かなりの負担を医師に与えるとの判断から、医事会計システムを組み込まず、診療フェーズに特化した電子カルテとし、他社の医事会計システム、画像・カルテ読み取り記録システム、薬剤間相互作用チェックシステム、検体検査結果表示システムなどとオープンに連動するためのプログラムを開発できるようにした。



2.電子カルテ「あんしんチャート」の概要

本システムは内科開業医向けに開発されており、販売価格90万円(ソフトウェアのみ)・月間保守料1万円(マスターメンテナンス・バージョンアップ及び障害対応を365日9時〜21時コールセンタ受付)と開業医になるべく負担のかからない価格に設定し、薬局用機器ソフト大手メーカー、既存レセコン販売会社等を通して平成14年4月より本格販売を開始する。
a)主な特徴

@カルテの作成に必要な文言や処方薬、検査などのセットを登録済み(カスタマイズ可能)。
Aカルテを作成しながら同時にサマリーも作成でき、診断書や紹介状をすぐ発行できる。
B「外来診療クイック・マニュアル」を開発・搭載し、随時、参照できる。
Cほとんどの操作がペンタッチ(ないしワンクリック)だけで実行でき、また、画面を2分割し、常に、左側画面に過去データを表示し、右側画面でカルテ作成をするなど、簡単操作のための様々な工夫をした。



b)機能一覧

@患者情報
・既往歴・アレルギー登録

A診断・診療支援機能
・主訴から想定される疾患表示
・診療支援(問診)---「外来診療クイック・マニュアル」の参照
・診療図の作成機能
・慢性疾患フォローアップ支援機能
・頻用カルテ用語(病態別登録済)
・カルテ用語のユーザ登録
・ワンクリック入力
・ペン入力可
・来院患者の受付機能

B業務機能
・頻用処方薬(薬効分類別登録済)
・頻用薬剤のユーザ登録
・検査セットの登録
・処置セットの登録
・薬歴表示
・病歴要約(サマリー)の自動作成機能
・医療文書(診断書・紹介状)作成機能
・一時保留機能



c)動作環境

@ソフトウェア
・基本OS:Windows2000SP2以上
・DB:MS-ACCESS
・ツール:Ms-Office2000 Professional

Aハードウェア
・CPU:PentiumV800MHz以上
・メインメモリー:256MB以上
・グラフィックメモリー:8MB以上
・レーザープリンター
・MO装置



d)実際のインターフェーイス・イメージ

 まず入力作業を最小化するために、コンピュータのキーボード使用を極力排除し、診断情報に基づいて作成された患者の問診に関する文書の入力をワンタッチで行うことができるようにした。


(図1 クリックで拡大)


 また、過去のカルテ記録を常時確認可能な履歴一覧からアクセスして1クリックで転記する機能の考案により、当日診療時のテンプレートとして用いることでカルテの作成を容易にかつ効率的に行うことができる。


(図2 クリックで拡大)



 これは、既存の自己作成文書の転用により入力作業への心理的負担が軽減されるという認知心理学に裏付けられている。さらに、カルテ記載のみならず、処方箋を一括処置できる機能,紹介書や意見書等の書類作成・保管を日常診療のリアルタイムで可能にする文書作成支援機能を搭載し、入力作業に要する時間のみならず事務処理時間を最小化して、診療時間を有効に活用できるシステムである。

3.臨床応用への展望

データ入力が個人のコンピュータ操作能力の依存しないという利点に加え、リマインダー機能で疾患イメージを的確に提示することで患者の健康状態に対する理解度を高め、良質な外来診療が可能となる。さらに患者のインフォームドコンセントへの応用も可能である。これは、患者の自己決定権を尊重し、患者と医師が共同して医療方針を決めるという共同意思決定(shared decision making)ツールとなり、医療危機管理の観点からも不可欠なものとなる可能性がある。