EMInet松戸市医療情報ネットワーク

(在宅医療・慢性疾患のための地域共有電子カルテシステム)

 

高林克日己

千葉大学医学部附属病院医療情報部


1 EMInetの背景と特徴

松戸市のEMInetは、1年前から行われてきた、訪問診療の医師と病院をつなぐ病診連携を基本とした在宅終末期医療支援システムの発展形ということができる。しかしこの形態は緊急時の対応として在宅医療以外の小児科や産婦人科など多くの領域にも通じるものである。またこの中で、不特定多数の施設を結んだときにどのような共有関係が求められるかが松戸市のシステムでの実証実験の根幹となった。さらに事前指示書を取り入れることで、現在問題になりつつある、患者の事前意思表示を電子カルテに取り入れることとした。このようないくつかの特徴をもったシステムを実際に40の施設間で運用し、その評価をまとめてみた。

 

2 システムの概要

松戸市コンピュータサービスが提供するサーバ内にOracleでデータベースを作成し、これと各施設のクライアントが地域IP網で結ばれたASPを基本としている。各医師は端末に指紋認証でログインしたのちWebベースで情報をサーバにアクセスする。


(図1) EMInetシステム 概要(クリックにて拡大)

3 共有施設

共有施設には松戸市医師会が主体となって各施設に呼びかけ、2つの公的病院、8つの私立病院、28の診療所、2つの訪問看護ステーションが参加した。

これはこの5月より更に拡大する予定である。

 

4 共有の方法

共有設定はかかりつけ医をキードクターとし、この医師と患者さんが話し合って決めることとした。新たな施設の共有はキードクターのみが加える権利をもっている。また患者は配布されたe-cardをもっていけばどの施設でも自分のデータをみることができ、また医師に記入させることが可能になる。

一度このカードで接続共有された医師は、キードクターがとくに加入処置をとらなくてもその後は共有関係で結ばれる。このように患者本位で接続する施設は限定され、必要により拡大する方向で設計されている。EMInetへの記録は相互に開示することを原則として書かれており、共有関係にある他の施設の医師がデータを患者に開示することを許可している。

 

(図2) 共有方法 e カードをもっていれば、どこでも共有が可能である。また患者さんと医師の間でカードがなくても共有できる病院(医院)も設定できる。(クリックにて拡大)

(図3) eカード

 

3 実験期間

平成13年11月から3ヶ月間のデータを収集し、解析した。

 

4 結果

1) 登録患者

登録患者総数は3ヶ月の実験中で210名であり、多くが70歳以上の高齢者が50%以上を占め、うち女性が75%に達した。

2) 登録施設

登録した施設(入力施設)は診療所が多く、一方共有先は病院が多かった。

(図4) キードクターの施設別登録患者数(クリックにて拡大)


(図5) 共有を受けた施設別患者数(クリックにて拡大)

 

共有関係414のうち、実際に双方から記入があった33患者の関係を地図に示す。またこれを連携で分類すると診看、病診、病病連携の順になり、僅か2施設ではあるが、訪問看護ステーションとの係りの深いことが示されている。共有設定数は1ないし2施設が大半である。これはICカードをもてば患者はいつでも自由に病院を選択できることが可能であることも関係しているであろう。


(図6) 施設間の共有関係(クリックにて拡大)

 

共有関係414のうち、実際に双方から記入があった33患者の関係を地図に示す。またこれを連携で分類すると診看、病診、病病連携の順になり、僅か2施設ではあるが、訪問看護ステーションとの係りの深いことが示されているといえよう。共有設定数は1ないし2施設が大半である。これはICカードで患者がのちに自由に選択できることが可能であることも関係しているであろう。


(図7) 共有設定数(クリックにて拡大)

 


(図8) 共有先の施設別分類(クリックにて拡大)

 

3) 入力内容

 


(表1) 診療記録入力数(クリックにて拡大)

 

診療側が利用した資料の中では経過を記録する2号用紙の利用が診療所では3倍で、診療所での利用頻度の高いことが分かる。また詳細項目の中では在宅診療が特に利用されている。紹介状などの書類については印刷操作に十分習熟されていないためであろう。

 

プレノグラムなど、種々のグラフが用意されている。

(図9) プレノグラフ(クリックにて拡大)

 

また事前指示については項目ごとに入力し、患者あるいは家族に記入させる。これにより松戸市のどの病院に入っても事前指示書を参考にした医療が行なわれる可能性がある。


(図10) 事前指示に関する項目(クリックにて拡大)

 

4)アンケート

医師・患者双方のアンケートを行いシステムについての評価を得た。

1医師におけるシステム導入のメリット

導入により緊急時の有用性、他の医師の診療に役立つといった意見があった。一方でグループ診療ができるから、他の職種と連携できるなど、永続的な共有を目指す考えもでてきている。


(図11) システム導入で何を期待したか(クリックにて拡大)

 

2 システム総合評価

期間が短いために現段階においての医師の総合評価では、役立つと答えた施設が約半数であり、不明とするものが25%で今後の利用が期待されている。


(図12)システムの総合評価(クリックにて拡大)

 

3患者さんの評価

患者さんからの評価は予想以上に高いものであった。参加登録を希望しない例は稀にしか見られず、むしろ歓迎されたのは複数の医療機関での診察が円滑に行われる期待感からであると考えられる。特に緊急時の対応への期待が高い。

今後の期待として利用できる参加施設の増大がある。そしてこれにより参加施設、登録者双方の増加が、本システムのますますの普及を促進するものと考えられる。

 


(図13) 患者さんの評価


(図14) 患者さんからの希望

 

5 今後の方向

EMInetが今後発展するか否かは医師会以外に市、市立病院その他関係する機関の認識が大いに関係する。財政的なバックアップが必要であるし、特に登録する側よりも患者さんを受け入れる側の認識が重要である。しかしながら万一松戸市においての発展が期待できないとしても、今回のシステムにおける共有に関する考え方はより広域においても実現可能な方法の一つではないかと考えられる。そしていずれ遅かれ早かれわれわれは全国レベルでの共有設定方法が必要となるであろう。

 

4.実証実験 (3)

(4) 患者の評価

患者さんからの評価は予想以上に高いものでした。登録を希望しない例は稀にしか見られず、むしろ歓迎されたのは複数の医療機関での診察が円滑に行われる期待感からでしょう。やはり緊急時の対応への期待が高いようです。

今後の期待としては利用できる参加施設の増大があります。このことは診療機関双方ともに期待されることで、参加施設、登録者双方の増加が、このシステムのますますの普及を促進するものと考えられます。

(5) セキュリティ


(クリックにて拡大)

本システムのセキュリティは不正なアクセスによるハッキング等を防ぐ為に地域IP網を使用し、バイオメトリック認証としての指紋認証装置を用いている。登録医療従事者のセンターによるID、パスワード管理を導入している。3ヵ月に一度のID、パスワードの再交付。アクセスログを取得することによる各端末の監視を行なう事によりセキュリティの確保をしている。