1 プロジェクトの概要
1-1.目的
電子カルテを用い、プライマリーケアとゲートキーパーを担う「家庭医」を実現し、玉川地域の医療機関間の機能分担、情報連携を促進させることにより、患者指向のシームレスな予防・治療・緊急対応サービスを実現する。
1-2.背景
当地域(玉川地域)は、世田谷区西南部に位置し、住民は所得、教育水準が高く、医療に対する要求度も高い。しかしながら地域連携ネットワークの構築と医療機関間の情報の共有化については、中核病院において地域連携室が設置された等、取組みが開始されたばかりである。一方、中小病院、診療所の一部においては、患者指向の医療サービスの提供と「家庭」−「診療所」−「病院」をシームレスに繋ぐ、積極的な取組みが試みられている。
・中核病院では、電子カルテが未導入で、現在は電話とファックスにより、紹介状を送付する形式をとっている。
・100床程度の中小病院(地域密着型病院)では、24時間救急の実現、近隣診療所と連携し、MRI、CTの画像を撮影、提供する、セカンドオピニオンを提示する等の積極的な取組みが開始されている。
・一部の先進的な診療所(家庭医診療所)では、電子カルテが導入され、診療所内の複数医師間の連携、患者へのカルテ開示が実験的に開始されている。
1-3.目標
当事業は、一部の先進的な中小病院、診療所の動きをとらえ、IT技術を駆使したシステムでサポートすることにより、「中核病院」発ではなく、患者により近い「地域密着型病院」や「家庭医診療所」発の地域医療ネットワークを実現させるものである。
当事業はモデルケースとしての意味を持つ。情報化と医療機関連携が発展途上にある地域においても、中小病院や診療所を起点として、積極的な情報化を図ることにより、患者指向の医療が実現できることを実証実験し、周辺医療機関を徐々に巻き込んでいくことを目指す。
今回参加する家庭医診療所、地域密着型病院は数カ所に過ぎないが、玉川地域には他にも、地域連携に積極的であるが電子カルテによる情報連携には懐疑的な医療機関は多い。当実験参加医療機関は、これらの医療機関とも積極的に情報交換を行い、今後のネットワーク参加を呼びかける予定である。特に今回、中核病院は電子カルテが未導入なため、紹介時に患者の過去カルテを参照し治療に当たり、フィードバックを返すという「受け身」の参加に過ぎないが、今後、より積極的な情報連携について、共同検討を行ないたい。
2.実施概要
2-1.参加機関
プロジェクト参加者は大きく5グループに分かれており、家庭医診療所、地域密着型病院、中核病院、データセンター、各家庭から成り立っている。
各間を、データセンターを介した電子カルテ・画像情報システムを用いた医療情報ネットワークで連携させることにより、患者指向の医療の向上を目指す。
2-2.機能構成
(図1)
(1) 医療機関間情報共有機能
セキュリティが確保された安全なネットワークを構築し、データセンターの共有データベース(以後共有DB)を介して、複数種類の電子カルテ情報や画像情報を共有化し、医療機関が患者を紹介しあうための機能。
(2) 対患者情報共有機能
医療機関が情報を共有する共有DBから、インターネット開示用の公開データベース(以後公開DB)を構築し、患者の求めに応じて、患者に対してカルテ・画像情報を開示し、患者からフィードバックを受け取る機能。
(3) 定量的分析機能
共有DBから、患者が特定できないようにIDを削除した情報を抽出し、検索、分析用データベースを構築し、症例別等のキーワード検索や回帰モデル分析をおこなう機能。
2-3.システム構成
(図2)
(1) 電子カルテ(アピウス): Webブラウザ型の院内電子カルテ(アピウス)。
(2) 電子カルテ(カルテPlus): ASP型の院内電子カルテ(カルテPlus)。
(3) 画像システム(SecuredDICOM): DICOM規格の画像保管システム
(4) 画像システム(Popstore): DICOM規格の画像保管システム。
(5) 紹介端末: 家庭医診療所から紹介情報(氏名、性別)やカルテ情報を参加医療機関に送信したり、地域密着型病院や中核病院から、テキスト入力による診療・処方情報や紹介情報を参加医療機関に送信する端末。
(6) Webサーバ: 医療機関間情報交換、患者向け情報公開において、アプリケーションを稼動させるサーバー。
(7) 統計分析サーバ: センターのカルテ情報を検索・分析するサーバー。
(8) 共有DBサーバ: センターで複数カルテ・画像システムのデータを保管するデータベースサーバー。
(9) 公開DBサーバ: 患者の申込みにより共有データベースから抽出した公開用データベース。
(10) パソコン(各家庭): Web閲覧用に各家庭が自宅に所有するパソコン。