液晶ペンタブレット方式を支えるソフトウエア技術

株式会社ワコム


株式会社ワコムが開発・販売している「液晶ペンタブレット」は液晶モニターの中に座標検出センサーを組み込んだ製品であり、専用ペンを使用して画面に直接描画したりマウスと同じようにPCを操作することが出来る。類似の製品にモニターの前面に感圧パネルを貼った「タッチパネル方式」があるがタブレットの優位点としては以下の点がある。
1) 感圧パネルに比べて10倍以上の座標検出精度があるため細かい文字や絵を書くことができる。
2) 液晶パネルの裏面にセンサーが貼られているため液晶モニターの画面の品質、色を正確に表現できる(感圧パネルの透過率は一般に80%程度)。
3) 専用ペンに機能を持たせることができる。筆タッチの筆圧感知機能やサイドスイッチによるファンクション設定、ペン自身にIDを持たせることによる認識機能。
モニターのサイズは15インチXGA解像度のものと18インチSXGA解像度のものとがありすでに多数の医療機関で、電子カルテにおけるシェーマ入力、画像へのマーキング、所見入力時における手書き文字やイラスト入力、平易なメニュータッチなどで使用実績がある。しかし、従来本製品はそのユニークな特長を生かすためにはソフトウエアの工夫が必要であり開発工数の手間の関係から導入が難しい場合があった。今回の展示ではこのハードウエア特性を生かすソフトウエア技術について紹介、展示を行う。



1. ペン入力部開発キット「PenPlusDeveloper」

 タブレットにおけるペンの動作はマウスの動きをエミュレーションしているため通常のマウスのために書かれたソフトウエアは何ら変更なく動作する。しかしマウス操作に比べて人間がペンで線を引くスピードは圧倒的に速くマウス対応のソフトウエアではそのスピードに対応できなくなる場合がある。例えばWindowsに標準添付の「ペイント」ソフトを用いて鉛筆で書くスピードで文字を書いたりすばやく円を書いた場合、線がとぎれたり丸が多角形になったりペンへの追従が悪かったりする場合があるが多くはこのことが原因となっている。そこで本ソフトウエアではペンでの快適な操作や書き味、機能などを実現した上で、さらにその機能を開発者が現在開発中のシステムに組み込みやすいようにActiveX化したSDK(ソフトウエア開発キット)を開発した。このSDKを使用すれば図にあるような内視鏡レポート入力インタフェースや画像やシェーマへのコメント、マーキング入力のソフトウエアが一週間程度で組み込みことができる。開発者はとくにタブレットの知識やグラフィックソフトの開発経験がなくとも使用できる。
ように配慮されている。




2. 手書き文字認識ソフトウエア

 ペン入力のメリットの一つとして手書き文字認識がある。しかし従来の手書き文字認識ソフトウエアはどうしても認識率や操作性で100%満足のいくものがなくいまひとつ普及には至ってはいない。現状は人名のふりがなを一文字から三文字程度まで認識させ、絞込み検索機能としてシステムに組み込む事例が多い。 しかし最近実用的な手書き文字認識エンジンが登場してきている。シャープがPDAザウルスで採用しているエンジンを加工したものやPDA用として最高の認識機能と評価されているDecuma社の製品などである。今回の展示ではDecuma社の手書文字認識ソフトウエアを紹介するが、いずれの場合も既存システムに組み込みやすいようにSDK(開発者用キット)化しているため組み込みには手間はかからないようになっている。



3. サイン認証ソフトウエア

 個人認証を得るための方法としてパスワードのほか指紋などいくつかの方法が研究されているが、ペンによる手書きサイン認証はサイン社会である欧米を中心に普及が進みつつある。株式会社ワコムが国内で販売代理店となっているイスラエルWonderNet社の「Penflow」はペンによるスピード、リズム、筆圧、加速などを総合的に判断して個人認証を高い精度で実現している。すでに欧米の金融機関、軍関係、官公庁などで導入実績がある。煩雑な暗証番号を覚える必要がなく、また紛失したり盗まれる心配がない、既存システムへの組み込みが容易などの特長がある。



4. ペンIDを利用した個人認証の共同研究

 株式会社ワコムのタブレットの専用ペンは内部にID機能をもち個々のペンをタブレット側が認識することができる。元来はグラフィックスソフトでの使用を想定して個々のペンに色、筆の種類、各種設定を登録してペンを持ちかえると自動的にソフトの設定を変更するために開発したが、この特長は医療分野において筆跡の履歴や個人の認証用などセキュリティ目的で応用することが出来る。現在東京大学、国立循環器病センターと共同研究を行い医療分野での検討をすすめている。