『ASP型電子カルテはどこまで使えるか?』
〜 ASP型電子カルテの費用対効果について 〜

出野 義則
セコム医療システム


 

1.はじめに

Web技術の進展とネットワークの高速化が、今まで医療IT分野の常識を覆す勢いで医療市場に浸透しつつある。『安価』、『高品質・高機能』、『手軽さ』、に加え、医師が想い描き続けた医療の実現にASP型電子カルテが大きく貢献している。
過去に厚生労働省や経済産業省が、電子カルテの開発や普及を支援するモデル事業に多額の助成を行ってきた。しかし、継続している事業はごく僅かである。継続していても運営資金面が厳しい状態であったり、事実上利用されておらず休止状態に陥っているケースもある。既存のビジネスモデルに多額の資金を注入しも、新たな市場や新たなモデルに発展しないことの証かもしれない。
一方、公的資金に頼ることなく民間の力で育っている医療分野の『ASPモデル』は多くの規制を知恵や技術でクリアし、社会の力に支えられて着実に育って来ている。失敗の事例にも、成功の事例にもその原因と結果の間に必ず背景要因が潜んでいる。ASP型電子カルテはどこまで使えるのか?と題しているが、ASP型電子カルテはなぜ、利用者に選択されるのか?と言い換えることもできる。医療のユーザがなぜASPモデルを選ぶのか、その結果ユーザにはどのような価値が生まれたのか、またASPモデルの限界についてSeagaia Meeting 2005で述べる。


2.ASP型電子カルテ

ASPのイメージとしてはインターネットでソフトをダウンロードして利用するものもあるが、セコムのユビキタス電子カルテは、デジタル化された診療記録(原本)を外部に安全に保管し、必要な時に必要な場所から診療記録にアクセスできる医療ネットワークサービスである。発生源でデジタル化するツールが電子カルテへの入出力ソフトウェアである。センターに保存蓄積された診療データをその医療機関が保険請求業務や経営分析に利用する。そのソフトウェアもすべてASP方式である。(診察券作成、自動再来受付、待ち患者紹介、携帯予約、PACS、健診、医事、薬品情報提供書、在庫管理等)電子カルテを購入し所有する(所有権の獲得)のではなく、必要なツールの使用権獲得と原本データ保管をユーザがサービス提供者に委託をするものである。

したがって、ユーザは自由にこの契約を解約することもできるし、預けていたカルテデータの返却を求めることもできる。ユーザは小さいリスクでASP型電子カルテが利用できる。一方、サービス提供者は、利用者に価値あるサービスを提供し続けないと解約されるリスクを有するし、品質に不良があれば利用料の請求もできない。システム販売方式に比べ、ユーザの安心感はASP方式が勝る。
新規に開業する場合や、世代交代する場合や、システム交換する場合などに、より少ないIT投資で電子カルテ購入と同様の結果が得られるのも魅力的である。

3.ユビキタス電子カルテの適応範囲

国民が選択する医療サービスの形態は、日々変化し続けている。アンチエイジングやウィメンズなど、自由診療にも関わらず盛況な医療機関が多く出現している。病院を出て自宅で療養を行う終末期のガン患者や難病患者を支える在宅クリニックも数多く存在するようになった。

『来る者は拒まず、去る者は追わず』の姿勢から、患者のニーズに応え、選ばれる医療機関への変革があちこちでおきている。まさに、新しい医療モデルの現れである。新しい医療モデルを支える電子カルテは、これら新しいマーケットにもスピディーに適合し機能が進化していくものでなければならない。ASP方式はこのような市場の環境変化と医療制度の改正にサービス提供者が自らの責で対応すことになっており、ユーザにカストマイズ費やシステム保守費の負担が生じない仕組みである。

外来クリニック、有床クリニック、小規模病院、中規模病院で利用でき、内科、呼吸器科、循環器科、外科、整形外科、小児科、耳鼻科、皮膚科、眼科、婦人科、泌尿器科で利用されている。電子カルテ化が難しいと言われている眼科でも一人の医師が連日120人/(6時間)をこなしており、運用やプログラムを見直しながら最適なソリューションをASPプロバイダーのセコムが提供している。

4.ユビキタス電子カルテの魅力

ネットワークの先に優秀な医療情報技術者が数多くいる。医事や検査やオーダリングや画像や健診などその分野の専門SEがユーザの希望に応えている。IT技術に秀でており、医療や臨床の現場に精通しているSEが、ユーザ希望や相談に応じ、直ちに解の提示や提案をしてくれる。利用契約中は、電話やメールなどで相談もできる。

システム運用管理もサービス提供者であるセコムが全て行っている。データのバックアップやマスターの追加変更など煩わしい作業がユーザに生じない。ユーザは毎日ただ使うのみである。セキュリティーも万全で、利用者の個人認証、ログの採取など『医療情報システムの安全に関するガイドライン』を容易に達成することができる。院内に設置する方式に比べ、個人情報保護の観点からも優れている。

5.ユーザの効果

ユビキタス電子カルテには、マーケッティング機能としてインターネットによる診療予約がオプションで搭載されている。携帯電話機やインターネットに接続されている端末から患者が自由に診療予約を行うことができる。また、カルテ開示を希望する患者には、インターネットを利用して安全にカルテ開示することが基本システムに組み込まれている。医師と患者間で双方向に医療情報のやり取りが可能になり、患者が記入した内容を医師が電子カルテから診療前に参照することができる。患者に見せるカルテ作りは医療機関のブランド作りでもあり、新規患者から信頼や信用を得るのにとても重要である。ASPで達成できる特長の一つであり、過去に多くあった備忘録としてのカルテ内容では患者への開示は難しいし、医療監査や医療裁判などにも耐えられない。

ユビキタス電子カルテはWeb上で動作し、電子カルテを利用しながらインターネットやメールを利用することも可能である。診察室に複数のPCを設置する必要もない。Web環境にて動作する他システム(PACSや心電図システムや画像ファイリングシステム等)なら容易にURLリンク方式でシステム結合できる。部門系の新システム導入や買い替え等も容易に行える。

 

6.まとめ

ASP型電子カルテの費用は、基本料金、使用料金、通信料金、導入作業費に分かれている。クリニックの場合、初期費用として170万円から、月額費用として10万円からとなる。この費用にハードウェアは含まれず、ユーザが通販や近隣の電気店からハードウェアを購入することになる。既に保有しているPCを再利用することも可能で、接続台数により料金が変わることはない。(ウィルスチェックは別)

通信速度が安定して100Mbpsを常時確保できるなら、ASP方式で殆どのことができる。検査会社の検査結果データをASPセンターがリアルタイムに受け取り、依頼した医師へ検査結果が出たことを知らせることも行っている。院内で撮影したCT画像を、専門の読影医に遠隔読影依頼し良質の医療を行っているクリニックも存在している。在宅患者が救急車で病院に搬送されると、家族や本人からの依頼で電子カルテから搬送された医療機関へカルテ内容をFAXしている実例もある。僻地では往診に電子カルテを利用し患者宅で処方箋を発行、患者が希望する調剤薬局から薬が配達されるケースもある。

経常利益の20%又は売上額の2%程度が、IT投資への適正な範囲と言われている。外来だと1レセプト100円、入院だと1日1ベッド300円に相当する。この程度のIT投資で院内のシステム化を成し遂げるべきであろう。ASP型電子カルテは、一定のユーザ数に達すれば、より少ない費用負担で良質なサービスを提供することができる。

以上