P2P型高信頼情報流通に関する研究開発



林 弘樹 1) 浪岡智朗 1) 続木雄磨 1) 山本明仁 1)

橋本真幸 2) 田中卓弥 2) 清本晋作 2) 山田 明 2) 松本修一 2) 小池 淳 2)

山上浩志 3) 廣川博之 3) 下野哲雄 4) 三田村好矩 5) 吉田晃敏 6)


1) 情報通信研究機構 旭川高信頼情報流通リサーチセンター
2) (株)KDDI研究所
3) 旭川医科大学附属病院経営企画部
4) 北海道東海大学工学部
5) 北海道大学大学院工学研究科
6) 旭川医科大学眼科学講座


1. はじめに

端末(Peer)間同士で情報を直接送受信するP2P(Peer to Peer)ネットワークは,医療分野のように施設単位で管理されている情報を施設間で共有する場合に有効なネットワーク形態であると言える.しかし,安全性などに対する課題を解決しない限り,実用化は難しい.そこで情報通信研究機構[1]では,医療情報の流通に適したP2Pネットワーク技術の確立を目指し,平成14年4月に旭川医科大学眼科学講座 教授の吉田晃敏をリーダーとする「P2P型高信頼情報流通に関する研究開発プロジェクト」(平成14年度〜16年度)を発足させた[2].

このプロジェクトでは,P2Pネットワーク環境において高水準のセキュリティ確保と迅速な情報流通の実現を目的としたP2P型情報流通技術と,その技術に適合した医療情報処理技術の2点を中心に研究開発を進めた.そして,北海道内の複数の医療施設を接続し,医師による医療情報の登録や検索を行うことで,各要素技術の有効性や医療分野に対するP2Pネットワークの実用性・問題点を評価した.

2. P2Pネットワークの基本構成

P2Pネットワークには,検索機構を各Peerが分散して受け持つPure型と,その機構をインデックスサーバに持たせたHybrid型がある[3,4].このうち,医療情報の施設間共有で求められる安全性や検索の確実性,迅速性を解決できる後者を選択し,図1のようなP2Pネットワークを構築した.インデックスサーバは,各Peerが所有するコンテンツのインデックス情報,およびネットワークに接続するPeer情報を管理し,またPeerからの検索要求に応じてインデックス検索を行うものである.各Peerは,共有するコンテンツの保管や,Peer相互間でのコンテンツ送受信を行う機能を有する.


図1 Hybrid型P2Pネットワーク構成

3. 共有対象としたコンテンツ

共有対象とする医療情報を,眼科カルテ(テキスト),検査画像(静止画像),手術映像(HDTV動画像),ドキュメントファイル(doc,pdf,xlsなど)の4種類とした.眼科カルテは,MML Version 3.0[5]に眼科特有の検査情報を独自に追加したものとし,MML中に記述した外部参照情報から各種画像やドキュメントファイルの所在を把握できる構成とした(図2).なお,病名や手術処置名などの医療用語には(財)医療情報システム開発センター[6]が提供する標準マスターを使用した.また,各Peerで管理するコンテンツの安全性を確保するため,MMLを暗号化した状態で保存することとした[7].


図2 対象コンテンツの基本構成

4. コンテンツ入出力アプリケーションの開発

眼科カルテや画像を登録・検索・表示するためのアプリケーションソフトを開発した(図3).実証実験では,眼科医がこのソフトを用いてカルテデータの登録や検索・取得を行った.


図3 実証実験用に開発したコンテンツ入出力アプリケーション

5. 実証実験

研究開発成果の実用性や問題点を確認するため,北海道内の14医療施設と当機構の実験拠点(北海道旭川市),そして北海道東海大学を結ぶP2Pネットワークを構築した(図4).この環境下で,眼科医が登録した眼科カルテ(275症例)やそれに付随する各種画像を流通させ,2度のアンケート調査を行うことで実験システムを評価した[8].なお,実験に参加した眼科医は20名である.


図4 実証実験ネットワーク

6. アンケート結果

アンケート結果の一例を図5に示す.今回の実証実験によって,患者のプライバシー保護やシステムの操作性などに関する課題を解決すれば,P2Pネットワークによる医療情報の共有が実現可能であることを確認することができた.


図5 アンケート結果の一例

7. おわりに

「P2P型高信頼情報流通に関する研究開発プロジェクト」は,平成17年3月末をもって終了しているが,当機構では,これまでに得られた研究成果が医療情報流通のさらなる発展に貢献できるよう今後も広くアピールしていきたいと考える.

【参考情報】

  1. NICT 独立行政法人 情報通信研究機構:http://www.nict.go.jp/overview/index-J.html
  2. P2P型高信頼情報流通に関する研究開発プロジェクト 研究開発最終報告書:NICT,2005
  3. 河内:P2Pインターネットの新世紀:電気通信協会,2002
  4. 伊藤:P2Pコンピューティング 〜技術解説とアプリケーション〜:ソフト・リサーチ・センター,2002
  5. MML Version 3.0 規格書:http://www.medxml.net/mml30/MMLV3Spec_050420.pdf
  6. 財団法人 医療情報システム開発センター MEDIS-DC:http://www.medis.or.jp/
  7. 清本,他:医療情報流通プラットフォームにおけるセキュリティ機構の開発:電子情報通信学会論文誌D-T,Vol.J88-D-T,No.2,pp.378-390,2005
  8. 山本,他:P2P型ネットワークを用いた医療情報の流通実証実験の概要:第24回医療情報学連合大会論文集,pp.526-441,2004