厚生労働省標準電子カルテプロジェクト

高田彰
熊本大学医学部付属病院医療情報経営企画部


 

・このテーマで、すでに分かっていること

組織内にある情報システムを体系的に開発する枠組みとして、EA(Enterprize Architecture)の手法がある。ビジョン・プリンシプル(原則)、共通に守るべきルールや遵守すべき標準規格などを明らかにして、現状(AsIs)から有るべき姿(ToBe)に進むステップを示し、開発計画に展開する。現状や有るべき姿は、業務(ビジネス)モデル、データモデル、アプリケーションモデル、テクノロジーモデルで記述し、参照モデルとして整備していく。e-Japan計画においてはEAを「最適化計画」と称し、この手法を用いて政府全体の業務・システムの最適化計画を策定するとしている。

一方、システム開発手法の枠組みとして、モデル変換により、一連のシステム開発作業をドライブしていくモデル駆動型(MDA: Model Driven Architecture)のシステム開発手法というコンセプトが提示されている。モデル変換のためのルール化なども進められており、統一的な手法による安全で合理的に、業務・システムの体系的整理、記述、設計、開発することが可能となるとしている。

しかし、保健・医療・福祉分野の情報基盤整備するうえで、これらの枠組みをどのように実現し、推進すべきかという点は明確ではなく、これを実証する必要があった。

・本研究で加えられたこと

諸外国における先進的な保健・医療・福祉分野の情報基盤整備プロジェクトの開発動向について調査し、わが国における標準的電子カルテを推進するための課題について整理し、課題解決のための提言をまとめた。

統一的な手法による業務・システムの体系的整理、記述、設計、開発方法としてMDA(Model Driven Architecture:モデル駆動型アーキテクチャ)を具現化したRM-ODP/EDOC(Reference Model for Open Distributed Processing / Enterprise Distributed Object Computing)を適用する方法を検討した。HL7V3のRIM(参照情報モデル)に準拠した電子カルテシステムのデータモデルの開発方法を検討した。具体的には電子カルテシステムの、(1)病院業務・運用に関する業務機能モデルを開発した。(2)薬物療法の安全性向上のための共通的機能要件を明らかにした。(3)患者基本情報および診療録の1、2号用紙の内容を中心に、HL7V3のRIM(参照情報モデル)に準拠したデータモデルを開発した。(4)処理モデルならびに実行モデルを開発した。(5)開発したモデルを効率的に閲覧するための環境を整備した。(6)流通可能なソフトウエア部品の粒度として「ユニット」という概念を示し、「ユニット」の有効性を検証した。(7)知識処理の技術を用いて医療の安全性を確保する機能を「ユニット」としてシステムに組み込む手法を示した。(8)電子保存対応、個人情報保護対応について要件整理した。(9)モデルおよびコンポーネントを用いた電子カルテシステム開発を普及させるための課題を明らかにし、必要な施策について提言をまとめた。

・本研究成果の専門的・学術的意義

産官学の連携体制のもとに推進すべき保健・医療・福祉分野の情報基盤整備について、基本的なフレームワークを示し、マルチベンダー開発環境の整備、柔軟な使い勝手選択の提供、新しいITインフラへの移行コストの最小化、蓄積された診療情報の継続性と寿命の確保、地域医療連携に必要な情報共有を行うための技術的基盤整備について、社会的情報基盤として普及させるための方策を明らかにし、必要な施策について提言をまとめた。

モデル駆動型(MDA: Model Driven Architecture)のシステム開発手法という観点から、電子カルテが提供すべき機能とその構成について検討を行い、ソフトウェア部品の標準化について研究を行い必要な提言をした。

各種標準化団体とコラボレーションしながら、国際的な枠組みの中での電子カルテシステムの基本設計図および実装コンポーネント仕様を導出する手法を明らかにした。

業務・システムの体系的整理、記述、設計、開発プロセスを統一的な手法により文書化し、利用可能なモデルを整備し、モデル技術の利用を促進した。この結果、ユーザ側がベンダー側にシステム要件を明確に伝えることが可能となり、マルチベンダーによるシステム構築においてもベンダー間の医師疎通が円滑になり、システム開発が安全で容易になることが期待され、使いやすいシステムがより低価格で実現できる基盤が整備された。