メディカル・ネット99の現状と将来構想

平尾幸一、横山吉博、浅野訓一、藤本修治、川上康人、
藤田武徳、朝長 大、横山紀美子、平田俊子、藤元良朋
医療法人財団白十字会佐世保中央病院メディカル・ネット99管理委員会



【はじめに】

地域完結型医療実現のツールとして、平成16年12月に、当院の電子カルテをはじめとした医療情報システムをインターネットによりホームドクターに開示する、地域医療連携ネットワーク「メディカル・ネット99」を稼働させた。また、来年更新する電子カルテシステムに合わせてメディカル・ネット99を改修する予定であり、現状の紹介とともに報告する。

 

【開示している情報、機能】
 1)患者様医療情報

・医師および看護師の経過記録・サマリ、手術記録、病理結果、画像、処方・注射内容、各種検査データ、リハ・栄養士などコメディカル部門の記録、などすべての患者様医療情報。

 2)院内マニュアル

・感染対策マニュアル、安全対策マニュアル、各種検査・治療マニュアル、診療ガイドラインなど。

 3)学会・講演会のスライド

 4)紹介状

・当院へ紹介していただく場合に紹介状を作成するツールを用意しており、主に3つの医療機関で利用されている。

 5)CT、MRI検査予約

・電話による問い合わせは不要で、8つの医療機関が利用している。

 

【現状】

 5月9日の時点で、参加医療機関は30(うち法人関連施設4)、登録患者数は1076名であり、毎月80〜90名の患者様が新規に登録されている。患者様からの同意取得の契機別に以下のように分類した。

 1)放射線科への検査依頼時:384名/1076名=36%

・参加医療機関30のうち、22の医療機関がCT、MRIなどの検査を放射線科へ依頼している。
・CT、MRIの検査予約は平均32名/月の患者様で利用されており、これは放射線科へ検査依頼される患者数の約24%に相当する。
・平均27名/月の患者様が、5つの医療機関においてフィルムレス運用されており、これは放射線科へ検査依頼される患者数の20%に相当する。

 2)紹介入院時:244名/1076名=23%

・当院の主治医に電話することなく(気兼ねなく)、入院中の診療経過を常に把握可能である。

 3)法人関連施設へ転院時:159名/1076名=15%

・当院から法人関連施設の療養型病院、介護老人保健施設へ転院される場合に利用される。

 4)外来紹介時:117名/1076名=11%

 5)ホームドクター紹介時:87名/1076名=8%

・当院から地域医療機関へ逆紹介された患者様。

 6)過去の紹介患者様照合時:85名/1076名=8%

・最近当院には受診していないが、当院における過去の患者様医療情報をホームドクターが参照を希望する場合。

 以上より、メディカル・ネット99の特色を挙げると次のようになる。

 

【地域医療連携に対する貢献度】

1)法人関連施設を除く26の医療機関から当院へ紹介された患者数について、平成16年と平成17年で比較検討した。

a)当院への紹介患者数は、平成16年5209名、平成17年5751名であり、1年間で542名、10%増加した。

b)メディカル・ネット99に参加している医療機関からの紹介患者数は、平成16年1809名、平成17年2150名であり、1年間で341名、19%増加した。

c)メディカル・ネット99に参加していない医療機関からの紹介患者数は、平成16年3400名、平成17年3601名であり、1年間で201名、6%増加した。

2)紹介率は48%(平成16年4月)、52%(平成17年4月)、60%(平成18年4月)と伸びてきた。

3)以上より、メディカル・ネット99参加医療機関からの紹介患者数の増加が顕著であり、紹介率も60%に達し、地域医療支援病院取得へ向けた有効な手段であることが確認された。

 

【将来構想】

 1)ICカードを利用した患者様へのカルテ開示

・平成18年1月19日に公表されたIT新改革戦略では、2010年までに「本人情報開示の原則」を徹底させると謳われている。PLANETや医誠会城東病院のネットワークのように、患者情報のすべてを患者様に開示するか否かについては今後検討していくが、患者様が見やすい仕組みを電子カルテに備える必要があると考えている。

 2)地域医療連携パスと双方向のネットワーク

・地域完結型の医療を進めていく上で、地域医療連携パスの利用は不可欠である。現在、循環器内科でPCI(Percutaneous Coronary Intervention)連携パスの紙運用を行っており、メディカル・ネット99に連携パスの仕組みを構築し、ホームドクターから入力も可能な仕様を検討中である。

 3)退院・転院支援システム

・今年度の診療報酬改正、昨年からの介護保険改正に伴い、急性期病院においては後方支援病院との連携がより重要になってきた。DPC施行病院である当院としては、転院先あるいは、退院後に診療を継続していただくホームドクター、居宅支援施設を確保し、緊密な連携を速やかに行っていく必要がある。現在は、地域医療連携センターが患者様の転院先や居宅支援施設を電話やFAXを用いて個別に捜しているが、その手間と労力を省略し、より迅速に後方医療施設を決める方法として、患者様の状態(年齢、性別、住所、介護度、麻痺の有無、など)をメディカル・ネット99に表示し、引き受け可能な医療機関や居宅支援施設が手上げ方式でエントリーするシステムを導入予定である。このシステムを利用することにより、患者様自身が自分のホームドクターや居宅支援施設を、自分自身で決定することが可能になる。

 4)その他

a)当院では、今月よりジェネリック医薬品を院外処方に導入しており、調剤薬局からメディカル・ネット99を薬薬連携に利用したいという要望が出されている。患者様の同意など個人情報保護との兼ね合い、薬剤師のアクセス権限の設定をどのように行うのか、検討中である。

b)ケアマネージャーからは、ケアプラン作成のために医療機関への紹介状や退院時サマリの内容を参照したいという要望が出されている。これについても薬薬連携と同じような課題があり、ハードの仕様、ソフト面での運用を検討しなかればならない。

 

【結語】

 メディカル・ネット99の稼働後1年5ヶ月が経過し、参加医療機関から当院へ紹介される患者数が増加し、地域完結型医療が一歩前進した。しかし、現在のシステムは、ホームドクターのみに患者情報を開示する一方通行の地域医療連携ネットワークに過ぎないが、IT新改革戦略に謳われているように、患者様自身による医療情報コントロール権を、前向きに真剣に検討しなければならない時代が訪れている。患者様へのカルテ開示に関しては賛否両論あるが、このような仕組みを構築するためには、電子カルテと地域医療連携ネットワークの組み合わせは、まさにうってつけのシステムと言える。